Expedision(account of voyage)

 


 

第一回「ドラゴンの爪痕」第一章「出発〜」

’08年12月27日午前5時、起床。眠たくて仕方ないが、荷物は一週間ほど掛けて整

え、昨日の内に車に積み込み済みで、忘れ物のチェックも昨日の内に済ませた。

洗面所で顔を洗い、いじくってもあまり効果がないくらい短く刈った髪に整髪料を塗った

くって、台所にあった菓子パンを無理やりダウンジャケットのポケットにねじ込んで車に

乗り込んだ。息が白い。途中コンビニでホットコーヒーを買い、それでパンをモソモソ流

しこみながら高速道路の入り口に車を向けた。朝6時。思ったよりも車は多い。東名阪か

らレーンチェンジし名古屋高速へ。眠たいのもあったが、かなり時間に余裕を持って出発

したので走行車線をチンタラ走る。暫く行って又レーンチェンジし中部空港方面へ。集合

時間は7時40分だが、どんなにゆっくり走っても7時前にはトラベルプロの山田さんに

予約しておいて貰ったアットエルカという駐車場についてしまう。駐車場から空港までの

送迎は約5分だが、多分今日あたり出国ラッシュで搭乗手続きのカウンターは込んでいる

だろう、早くて悪い事はない。エルカ駐車場に到着し、車を預け荷物を送迎用のバンに積

み込む。寒いのでまだ着ていたいが、向こうに着いたらスーパー邪魔なだけのただの布切

れになってしまうので出来るだけ荷物を減らす為にダウンジャケットは車に置いて行く事

にした。昔から旅の時は少しくらいの不便には目をつぶってでも荷物を減らしていく主義

だ。ただ面倒臭いのが嫌いなだけだが。

空港について荷物をキャスターに積み替えてロビーへ。ここまでの車の量と思えば出国カ

ウンターには未だそれ程人が並んでいない。テレビ局や新聞社の人間が毎年の如く出国ラ

ッシュを報道する為にそこかしこで準備を始めている。見慣れた風景だ。10分〜15分

程の待ち時間で手続きは済んだ。特にする事も無いので喫煙ルームでタバコを吸う。

段々増えていく人でごった返す空港内を、タックルやロッド等大物の荷物を預けて残った

機内持ち込み荷物の横に座り込んでボーッと眺めていると、章司さんから電話が入る。ど

うやら彼も空港に到着して手続きの列に並んだようだ。章司さんはトラベルプロの山田さ

んの弟さんで去年もコモド遠征を共にした。去年始めてこの空港で出会い、これで二度目

だ。去年は中部空港に三名が集合したが、今年は章司さんと自分妻木の二名でシンガポー

ルに向う。出国手続きを済ませて荷物を預け終わった章司さんと一年ぶりの再会の挨拶を

かわし早々に搭乗口へ。

ホームページ用に出発ロビーで写真を取って貰い、する事も無いので二人で飲み物を買っ

て一服することに。午前9時40分出発の時間が来て機内へ。去年はこの時点で軽く風邪

をひいていたが、今年は体調は万全。もっとも去年もシンガポールに着いた時点で風邪は

直ってしまっていたのだが、何も無いに越したことは無い。

毎度の事ながら釣りの事以外日程表を殆ど確認しないので正確には判らないが、多分6時

間くらいのフライトだと思う。離陸後10分位は空路図を見て「シンガポールからのトラ

ンジットでエジプトに行けるんだ、いつかナイルパーチ釣りに行きたいなー」なんて妄想

をしていたが「何も無い時は寝ろ」が座右の銘なので、ブランケットを借りて機内食の時

間以外はずっと眠りこける。爆睡したのであっという間にシンガポールに着き、ドドドド

ッという着陸の震動で「ウワッ!」と目が覚めた。トランジットまで1時間程あるので二

人で喫煙所を探した。この空港は広くてしかも判りにくいので、毎回喫煙所を探すのに時

間が掛る。適当に時間を潰し今度はデンパサール空港行きの飛行機に乗り換える。

今度は1時間半くらいのフライトだが、またまた眠りこけ、またたま着陸のショックで目

が覚める。寝る子は育つ。ただもう背は伸びないだろう。

バリ島は三回目だ。一回目はバリ島単独釣行で二回目が去年のコモド島行きの際。そして

今回二度目のコモド遠征だ。現地の空港の人間がノンビリしていて入国手続きは毎回やた

らと時間かかる。しかし今年はやけに入国手続きの列に並ぶ人が少ない。世界不況の影響

だろうか。ふと「自分も来年は海外遠征が出来るのだろうか?」と漠然とした不安に襲わ

れるが、今そんな事を考えても仕方が無いので直ぐやめる。人が少ないとは言ってもボー

ッとした面でノンビリと仕事をこなす空港スタッフばかりなのでやはり時間が掛かる。や

っと手続きを済ませ、荷物受け取りのベルトコンベアーの前まで行くと、福岡空港からの

合流組みと出合った。去年はフライトの関係で中部空港組の一日前にバリに乗り込んでホ

テルで合流した一瀬さんと今回コモド遠征初参加の花田さんの二人だ。このグループに参

加させて貰えなかったら、海外遠征仲間の居ない自分は去年も今年もコモド島に行く事が

出来なかった。去年のメンバーの二橋さん、今年のメンバー、そして毎回色々お世話にな

っているトラベルプロインターナショナルの山田さんに感謝。

毎度の事ながら勝手に荷物を奪って小遣いを稼ごうとする胡散臭いポーターを無視してゲ

ートを出て、直ぐ目の前にある両替所で1万円をルピアに換える。去年は80万〜90万

ルピアだったのが今年は110万ルピア以上になった。えらい円高だ。しかし100万と

か金銭感覚がおかしくなる。ブランド品の様な高額品を買わなければよっぽど一週間はこ

れで飯を食ったり軽く土産を買ったり出来る。

今日は空港から10分くらいのホテルに泊まって明日はいよいよコモド島に向うことにな

る。四人でホテルを出て歩き、飯屋でナシゴレンとミーゴレンを食った。この二つの食い

もんだけは何処で食ってもあまりハズレが無い。簡単にいうとインドネシアのチャーハン

と焼きそばだが、これだけシンプルだと不味く作る方が難しいかもしれない。

ホテルに帰ってノットを作り速攻で眠りに着いた。

今回の遠征でGTの自己記録が更新できるだろうか。どんな釣行になるだろうか。一瞬そ

う考えたが、途中で意識が途切れた。

おやすみなさい・・・・zzzzz。

 


 第一回「ドラゴンの爪痕」第二章「ラブハンバジョ」

朝、章司さんの目覚まし時計で一発で目が覚めた。機中では寝っぱなしだったが、昨日は

落ちるように眠りに付いた。のび太くん並みの寝つきだ。顔を洗って上の階に宿泊の花田

さんと一瀬さんにモーニングコールを入れて合流、バイキングの朝飯を食った。部屋に戻

って荷物を担いでまたロビーへ行きチェックアウト、この時に同じく中部空港から来たダ

イビング組のツルピカはげ丸君とデータラぼっちさん(本名忘れてしまいました、すみま

せん)と合流、ボロボロのイカしたバンに荷物を積んで空港に向った。去年はデンパサー

ル空港からホテルに向う途中に二橋さんのロッドケースが積み忘れられている事に気付き

空港にとんぼ返り、奇跡的に荷物を積み込んだその場に残っていたがこの後も二橋さんは

体調不良に見舞われトラブル続き。一瀬さんも章司さんも自分妻木もそれを覚えていたの

で荷物のチェックに充分気をつけている。今の所四人共にまったくトラブルは無い。

デンパサールで他のダイバー組の人達と合流。去年の合計人数は20名だったが、今年は

フィッシング組4名ダイビング組14名の計18名がマザーシップに宿泊する。なんとな

くウキウキする。マザーシップサザンクロススタークルーズの責任者である唐沢さんも同

行して受付を済ます。事前に去年より荷物の重量チェックが厳格になっていると聞かされ

たが、なんの事は無い簡単にスルーして超過料金を得した。やた、おおらかで良いね。少

しだけ時間があったので、例の如く喫煙スペースに向う。ツルピカはげ丸君グループや他

の数人のダイバーさんと少し話したが、同じ海で遊ぶ者同士でも当然全く視点が違うので

面白い。やがてフライトの時間がやって来たのでゲートに向かいバスに乗って搭乗機へ。

小さなプロペラ旅客機に乗って出発。

一瞬にしておちた夢の中の暗闇から着陸の衝撃でキラキラと光る明るい場所へと引き戻さ

れた。

着いた、一年ぶりのラブハンバジョ空港に。この瞬間にやっと少しGTを釣りに来たんだ

という実感が湧く。空港の建物は日本で言うとその辺の小さい幼稚園くらいの平屋の建物

で、空港らしい施設が特になく、管制塔にも誰もいない。それどころか空港の敷地内にヤ

ギや牛や野良犬が闊歩している。迎えに来てくれたスタッフの中には知った顔も混じって

いる。キュートな日本人女性スタッフ。そして何より去年フィッシング班を取り仕切って

いたプラナントがいた。40を越え年上なのだが笑顔が子供のように可愛い現地の男性ス

タッフだ。彼は去年自分が持ち込んだティラノスマウスに興味を大変持ってくれ、他の話

を切り出す前に真っ先に「あのポッパー持って来た?」と話しかけてきた。今年はフィッ

シングチームではなくダイビングチームの引率(彼はNHKの番組に出演したこともある

有名なダイバーらしい)をするそうだ。残念。

土派手なカラーリングで訳のわからないリアウィングやスポイラーを装着し、中身はボロ

ボロで走行中もドアが開けっ放しの日本製の軽バンに乗り込んで港へ。未開の地というわ

けではないが、空港から港までの道のりは舗装もなく、道の両サイドにはボロボロの家や

これお店?ってな商店が並ぶだけで何だか少し冒険キャラバンの一員になったみたいな錯

覚に陥る。

港に着くと去年も乗った船、元カイザー号が係留されている。「おおっ、これこれ!」早

速勝手に乗り込む。この船で今日から4日間戦うことになる。このデッキにドーーーッン

とクソデカいGTをずり上げるんだ。きっと。

カイザー号に他の皆も乗り込み少し離れた所にいるマザーシップに向かい、釣り以外の荷

物をこちらに移す。宿泊する船室に案内されるが、去年寝泊りした部屋を通り過ぎて最奥

の部屋、船首に位置しているので窓が多く眺めは良い。それに去年よりもずっと広い。

直ぐにフィッシングボートに向かい準備をする。臨戦態勢。

ソワソワ逸る気持ちを抑えてリールをロッドにセットし一つ一つリーダーをガイドに通し

て行く。

ケヨロに6000GTを組みルアーは去年スピーディな展開で活躍してくれたマッドフラ

ミンゴGTをセット。更に改良を加え去年よりも完成度は高まっている。

コモドドラゴンには6500EXPを組みこちらにはティラノスマウスGTをセット。去

年の船中最大魚をもたらしたポッパーだ。基本は去年と全く変わらないが、今回は更なる

改良を施す為のデータを取る目的で、ラインアイを二つ付けたバージョンも持ちこみ、更

に5個全てが正規位置のフックアイ二つに加えて、ワンフック状態に対応したフックをも

う一つ追加している。2ラインアイバージョンで実に5個のアイがある事になる。リリー

ス済みのもの・プロトタイプを含めてエンジェルズエンジンの全てのルアーの中で、自分

にとって最も思い入れの強いものだ。自分がベストの状態で使いこなし、しっかりとやり

切りさえすればこいつなら絶対にやってくれる。

4人とも準備を終え、ボートのギアが前進に入れられる。

さぁ、始まるぞ!


 第一回「ドラゴンの爪痕」第三章「5時間の憂鬱」

実釣の出発前に4人でジャンケンをして初日の釣り座を決めた。話し合いで初日に決めた

釣り座から一日交代で前方向にローテージョンをすることにしたが、自分妻木が一番年下

で一番GT歴が浅いので、もし心無い人達と一緒ならいらぬ苦労をしなければならない所

だが、全員が基本平等にという姿勢を持ち、話し合いと暗黙の了解でバランスを取れるあ

りがたいメンバーだ。このジャンケンで初日はフロントデッキが前から花田さん・一瀬さ

ん・自分、リアデッキが章司さんに決まった。

最初のポイントに近づき、船が速度を落として微速運転に切り替わると、ソワソワ騒ぎ出

して落ち着かない気持ちを押さえ込む。そういう人は多いかもしれないが、船のエンジン

音の変化には敏感になってしまっている。エンジンの回転数が下がればポイントに近づい

た印だし、上がればナブラ等何らかの変化を発見した事が分かる。どんなにマッタリして

いても、例えもし船室で寝ていてたとしてもそれだけは聞き逃さないだろう。勝手に体が

反応する。

ロッドを構えて第一投の瞬間を待つ。船がポイントに対して良い位置に付け、花田さんか

らキャストスタート。次に一瀬さんが投げて次が自分。先行二人が狙いこぼしたポイント

を見極めてキャスト。同船者に迷惑を掛けない目的もあるが、何よりどの釣り座からでも

一秒でも早くポイントを打ってバイトを得たい。

先ずは全員がポッパーを選択してひとしきり打つが反応は無い。今年はガイドとしてプラ

ナントが乗船していない。カイザーの元所有者(Yちゃんさん。自分は面識が無いが章司

さんは良く知っているようだ)の頃からの操船者である現地スタッフ(名前を忘れてしま

った、旧カイザー時代に乗船経験がある方ならご存知かと)は、去年はそう感じなかった

がポイントの見切りが早いようだ。

直ぐにこのポイントに見切りを付け移動。次のポイントもその次のポイントもバラフエ等

の外道を含めて全くバイトが無い。去年は初日が実釣4時間二日目〜四日目が8時間だっ

たのが、それぞれ5時間・10時間に変更された。

スタートフィッシングから3時間ほど経つと全員に疲れの色が出始め、4時間経ってもス

トップフィッシングの5時間が経っても反応すらゼロ。残業タイムの6時間目が過ぎても

何も起こらなかった。

結局この日は何も起こらず完全試合だった。当日はカラッと晴れていたが、前日までかな

り大量の雨が降っていたらしい。浮きゴミが多く、水潮の傾向もそこかしこで見られた。

自分は去年初日にその時の釣行の船中最大魚を含んだ数本のGTを揚げ、今年も初日にか

なりの期待を持っていたのだが、思わぬ全員ノーフィッシュのノーバイト。それに2台の

リールの内片方のハンドルの調子がオカシクなってしまったのも気に掛かる。

予定時間を越えて頑張ってくれたスタッフの期待に応えられなかったのも残念だ。が、後

三日間30時間タップリある。いらぬ焦りはリズムを無駄に狂わせるだけで禁物だ。

マザーシップに帰るとダイバーチームは既に全員帰還。もう直ぐで夕飯が出来るので、急

いでシャワーを順番に浴びて2階へ(客室やシャワールーム・トイレは1階で2階がダイ

ニングルーム・3階がトップデッキでバーベキューが出来る。かなり快適この上無い)行

く。元々インドネシアの飯自体がそれ程日本人に違和感の無いものだし、料理担当スタッ

フは現地人だが船の経営者は日本人なので味は問題ない、というか結構美味い。

去年献立がカレーライスの時に、まだお代わりがあると思い込んでいた自分がスタッフの

予想を超えて3杯も4杯も超大盛りで食ったせいで、後からやって来たダイバーの女の子

の分が無くなってしまった経験から、少しづつ様子を見ながらお代わりしたが、スタッフ

側も覚えていたらしくかなりの量が用意されていて一安心。旅に出るといつもより大飯食

らいなる(お恥ずかしい話、いつも大飯食らいだが)。

飯を食い終わって人心地つき、皆がビールを飲んだりして談笑を始めたのを見計らって、

トップデッキにノットを作るセットを持って上がった。今日一日働いてくれたタックルは

既に真水で洗ってトップデッキに上げてくれてある。釣り人心の分かるサービスだ。いつ

も次の日に釣りがある時は酒を我慢する。楽しそう(南の島でお喋りしながら酒を飲んだ

ら楽しいに決まってる)なので本当はガッツリ飲みたいが、ここに来た目的を最大限全う

したいので我慢我慢の我慢汁。

ノットを作り始めて暫く経つと花田さんがタックルバックを脇に抱えて上げって来た。彼

も自分と同じで、一日使ったリーダーは次の日の為に全て作り直す主義の様だ。去年は毎

日一人でこっそり(別に隠れてやっているわけではないのだけど)トップデッキに上がっ

ていた自分だが、今年はお仲間がいてノットを作るのも楽しい。この時花田さんと色々な

話をして、釣りに対する姿勢が同じだという事を知って尚更親近感が湧いた。「明日は釣

りたいですねぇ」思うことは全員同じだ。

調子の悪いハンドルを何度も確認するが、何とか大丈夫だろうか?メインタックルのリー

ルだし、スピニングの右ハンドルは全く一度も経験が無いので大丈夫じゃないとかなり困

る。もしハンドル側のネジ山がイカレテいるのなら、たった1タックルで残り三日間を戦

い続けなくてはならない。とは言えそれしか方法が無いのならアジャストして行くしかな

いし、必要以上に心配したって仕方が無い。とりあえず忘れたフリを決め込む。

ノットを作り終えて2階に降りて、暫くの間ダイバーの人達と談笑する。同じ場所で全く

違うどちらかと言えば正反対の目的でやって来た彼ら(彼女ら)と話す事は、興味深く刺

激的だ。話が人括り終わり、軽く睡魔が襲ってきたので船室のある1階に下りて行く。

二段ベットの下、シーツに体を滑り込ませる。寝る位置もジャンケンで決めた。このメン

バーで何かを決める時は必ず話し合いかジャンケン、後は暗黙の了解だ。民主主義万歳。

自分にとっては少し冷房が効きすぎている様だが、去年は夜中に冷房が切れていたので大

丈夫だろう。個人的には寒くて体調を崩すよりも汗をかきながら寝たほうが良い。それよ

りも眠い、眠い。だがこの事が後々自分自らトラブルを呼び込むキッカケとなってしまう

とは、この時は予想すら出来なかった。そしてまだまだ別のトラブルが待ち構えている事

もこの時は未だ‥‥。

タオルケットを二枚喉まで被って、夢の中にテレポーテーションするのにそれ程の時間は

要しなかった。明日はきっと状況が上向きになるだろう。

眠い眠い。明日は晴‥‥‥ZZZZZZZZ。

 


第一回「ドラゴンの爪痕」第四章「トラブル」

29日朝実釣二日目、章司さん持参の目覚まし時計で一発で目が覚める。んっ、少し寒い

な。今年は冷房が朝まで切れずに付けっ放しになっている様だ。多少喉が痛んだが、風邪

をひいている人の傍にいてうつっても大体2〜3時間で直ってしまう程風邪に嫌われてい

るので大丈夫だろう。他には特に問題なく気持ちの良い朝だ。釣り遠征、特に今回の様な

船中泊の場合は他にやる事が無いので早寝で自動的に朝の目覚めもよろしい。

昨日のミーティングで出発時間を1時間早める事にした。こういう融通が利くのもこのク

ルーズの魅力の一つだ。ダイバーさん達のスケジュールもあるのでフィッシングチーム出

発時点では朝食が出来上がっていない。朝マズメを撃ってからマザーシップに戻っての朝

食になる。トイレで朝一の大物を排出した。快調快調って。喉も用意をして船に乗り込む

頃には気にならなくなっていた。これから朝飯まで2時間〜3時間程の実釣。まだ少し薄

暗い空は晴れ。次第に状況は好転して行く筈だ。

今日の自分の釣り座はフロントデッキの2番目。フロントデッキの2番目と3番目は少し

釣りがし難いが順番だから仕方が無いし明日はミヨシに立てる。どの釣り座からでも最大

限チャンスを生かせばそれで結果は出るはずだ。

何度かチェイスやバイトはあるがノラない。だが何も無かった昨日に比べれば確実に状況

は上向きだ。自分は少し不安定な立ち位置に昨日の内に慣れていたのだが、今日は前に一

瀬さん後ろに章司さんのサンドイッチ状態なので、キャストやポッピングのタイミングが

重なったりすると3人共やりずらい。この場合は真ん中の自分が前後両側を見てタイミン

グを計るべきだろう。スタート直後はペース作りに意識を持って行った。

この時間帯に章司さん一瀬さんがGTをキャッチ。他にもバラクーダ等、特に一瀬さんは

大きなリップ付ミノーで色んな魚種を釣り上げた。途中水面に横を向いて浮いてしまって

いるGTをレンジャー(この海域はレンジャーによって守られていて、パトロールを兼ね

て去年もフィッシングボートに同乗した。もっとも去年のレンジャーは船酔いでぶっ倒れ

てずっと寝ていたが‥‥)が見つけて蘇生し救出。この海域では時折ダイナマイト漁が密

かに行われ、その爆音でショック状態になったのだろうということ

ダッダイナマイト漁?嫌な事を聞いちゃったよっての。自分が釣る分は残っているのだろ

うか?と少し大袈裟に心配した。少しすると今度は他の漁船を見つけて呼び止め船内をチ

ェック。なぜか氷を捨てさせていた。自分達が食う分しか捕らせない、という意味だろう

か。

そうこうする内に時間が経ってしまったので朝食を摂る為マザーシップに戻る。今日もま

だまだ時間がいっぱいある。しかも炎天下、しっかり食わなくちゃ。朝食後のスタートに

なるダイバーさん達に「釣れましたか?」と聞かれると少々バツが悪いが「これから頑張

ります」と苦笑い。いつも家では米の朝飯だが、パンも悪くない。何枚も何枚も平らげて

パワー充填、満タン!あっ、少し眠たくなっちゃった。

少しマッタリ。昼飯の弁当が出来上がるのをインスタントコーヒーを飲みながら待ち、そ

れを積み込んで再度出発。自己記録のGTを釣りたいのも確かだが、今は気弱に先ず一本

釣りたい。

朝2?(朝一番の次)のポイントに付き再スタートを切るが、直ぐにハンドルの調子が昨

日よりも悪くなっていることに気付く。本体じゃなくハンドルの側が原因か?と思いもう

一台のリールのハンドルに取替える。暫くはそのまま続けるがどうも具合が良くない。じ

ゃあリールごと変えて……今思えば(はっきりとした原因が分からなかったので仕方ない

と言えば全く仕方ないのだけど)この対処方法が更なる大きなトラブルを呼び込む。

そうする内に、2台のリールの左側が両方共にちょっとそのまま使うには問題があるくら

い調子が悪くなってしまった。何か嫌な感じだ。と言うか、恐れていた事態が起こった。

今まで一度も経験の無いスピニングリールの右巻きに挑戦せざるを得ない状況に追い込ま

れてしまった。実戦に試したことは無いが左投げは練習中で、今はそこそこ飛ばせるよう

になっている。でも左手でポッピングやフッキングをやらなければならなくなるなんて、

想像すらしていなかった。夏は何時も上半身裸で釣りをするが、右巻きにスイッチしてか

らは、慣れない動作で左脇からバットエンドがずれてしまうので仕方なく上着を着る事に

した。

何度かレンジャーが漁師を見つけて追っかけたが(ここの漁師の船は全て手漕ぎ、直ぐに

捕まる)思わぬトラブルに少しイライラしていた自分は「なんだよ、お前らダイナマイト

か?俺のGTを横取りするんじゃねーよ!」と少しヒステリックになりかかった。でも、

この後何隻も捕まえた漁師船は全て氷を捨てさせられただけだった。生活が苦しいのだろ

うか、少し同情する。でもお願いだからダイナマイトは無しね。

キャストして着水してから、いつもの癖でそのままロッドを持ち替えずにハンドルに手を

やった。だが手をやった左側には当然ハンドルが無い。何度も何度もそこにはある筈の無

いハンドルを回そうとして肩透かしを食らった。もう一段あると思った階段が無かった時

の様だ(おっ、上手い事言えた)。それに、持ち手を変える時がまたギクシャクする。キ

ャストする右手からポッピングをする左手に持ち変えるタイミングが分からない。持ち変

える時に何度もロッドごと海に落っことしそうになる。ぐうぁー、最悪だ!!!

自分がまともに釣りをする事すら出来ないその間にも、他の人には何度かバイトがあり焦

る。偶々まともにポッピング出来た時に自分にもバイトがあったがヤッパリというか、ど

んな具合にアワセを入れれば良いのか、それすらも分からず何時もと正反対の動きに体が

暫くフリーズしてしまって対処が出来ない。

全ての歯車が狂いかかっている。いつ心が折れてもおかしくない状態だと自分でも分かっ

た。3人が気を使って色々話しかけてくれるので「大丈夫ですよ。今日中に左手で鬼フッ

キング出来るようになりますから」とは言ったモノの流石にこればっかりは難しい。なに

せ一度も経験の無い事を練習も無く一発本番で対処しなくちゃイケナイのだから。

暫くはジワジワと折れかかる気持ちと格闘したが、一瞬頭の中にこの事を一本も釣れなか

った言い訳にしてヘラヘラしている自分の姿が映像として浮かんでゾッとした。俺が釣ろ

うが釣ろまいが他の人は何とも思わないって!自分がデカいの釣りたいからこんな遠くま

で来たんだろうが!と思い直してからは、この状況にアジャストする事だけに気持ちを集

中させていった。何でも焦ったらイカン。

実釣しながら色んな方法を試した。持ち手を変えると着水後一回目のポッピングが遅れる

し、サミングが上手く出来ないので潮流の早いポイントだとラインが流されてもっと余計

に遅れる。持ち替えの必要が無いように左投げを試したが、実戦投入する程の完成度では

ないので左手がブレ易い。同船者に怪我をさせてしまう可能性があるかもな、と思いやめ

る。キャストして少しサミングをしたら、まだルアーが空中を飛んでいる内に右手から左

手へと持ち手を代える方法を試したが、着水後の対処が早くこの方法で行く事に。落ち着

いてやらないと持ち帰るタイミングでロッドを落としそうになって恐かったが、30分く

らいで直ぐに慣れた。あっ!俺、車の運転右足でも左足でも変わらないくらい出来るし、

ボートのエレキも両側どちらの足でも踏めるじゃん!って事を思い出してから、「多分今

日中にポッピングもフッキングも出来るようになるな」と考えると消えかけた希望が戻っ

て来た。

今遠征中に完璧にするのは無理でも、自己記録更新のチャンスが少しでも残っていればそ

れを生かしたい。ポッピングは一番最初に慣れたが如何せん何時も使っていない腕、筋力

・持久力共に足りない。特にティラノスマウスは自分が知る限りどんなポッパーよりも抵

抗が大きい。

こんなトラブルに見舞われるなら、抵抗を軽減しながら同じ破壊力を発揮可能な改良を施

しておけば良かった(釣り人の側がビルドアップすれば良いと考えてその点はそのままに

していたし、実際自分はなんとか使いこなせていてこの時までそれについて疑問を感じな

かった)。体力温存の為にマッドフラミンゴに持ち替えたが、昨日から薄っすら気付いて

いた傾向で今年はサラシや潮流の早いポイントでのバイトが極端に少なく、去年あれだけ

同様のポイントで力を発揮してくれたマッドフラミンゴにも全く反応が無い。

逃げ道を全て塞がれたので、覚悟を決めてポッピングを続けた。左腕と左側の背筋に乳酸

がタップリ溜まっても、それでもポッピングし続けた。ルアーを投げている限りはチャン

スがゼロになることは決して無い。乳酸でヨーグルトが作れそうだ。本当に久しぶりに運

動をしながらその場で筋肉痛になった。帰国後に気付いたが、たった2〜3日の左手ポッ

ピングで右側の方が強かった背筋が少しバランス良くなっていた程だ。

少し辛いが何とか夕方近くに左手ポッピングにも少し馴染んで来た。けどフッキングの練

習はバイトが無かったら出来ない。何度かGTをかけたが、全く対処出来なかった。自分

がフッキングしたつもりでも、力の入れ方やタイミングが分からないので竿はのされて、

余計にタイミングが遅れしまってバラシ。

ストップフィッシングの時間が近づき辺りも少し暗くなりかかって来たので「次は絶対に

決めてやる!」と気合を入れたその日最後のキャスト。着水後直ぐに渾身の力を込めてポ

ッピングをするが、一番可能性の高い着水後2〜3回位までのポッピングではバイトが無

い。諦めずに丁寧にボッゴン!ボッゴン!と続ける。と真横から強烈なバイト、直ぐにラ

インが引き出される。ドラグは相当キツく締め上げてある。「こっちは油断していなかっ

たぞ!」と心の中で呟いてから一度渾身の力でフッキングを入れる。手応えは十分、今度

は上手く出来た。こいつはかなり重い。気を良くして2回3回とフルパワーでフッキング

を入れ直すも、3回目のフッキングで手応えが無くなった。「ええぇー、あのフッキング

でも駄目なのか〜?」と思いルアーを回収するとカップ寄りの背中(肩)からボディー側

面にまで間隔の大きく開いた歯形が付いていた。ティラノスマウスはかなりボディーが太

く短い(この太さを普通のGTポッパーに当てはめると400グラムクラス以上になるの

ではないだろうか)のでこういった事が以前も何度か起こった。大体そんな時には同じよ

うな場所にかなりのサイズを思わせる歯形が付いていた。間違いなくそれなりのサイズで

ある事は確かだ。残念。

かなりガッカリしたが、手応えからして左手フッキングもどうやら少しモノになって来て

いる。今度は絶対‥‥こうしてコモド島2日目の実釣は終わった。

2日目でGTを一本もキャッチしていない。全くヘッチャラではないけど、バイトがある

のなら絶対に釣れる。初経験の右ハンドルとは言え、釣れなければ当たり前に自分が下手

くそなのが原因だ。マザーに戻る船中でも、夕飯前も飯の後も何度も何度も左手フッキン

グの動作をしてイメージを作ろうとした。なんだか行けそうな気がする。

「釣れましたか?」の質問が昨日よりもキツイ。この日も飯を食って花田さんとトップデ

ッキでノットを作り換えて早々に眠りに付く。

ああ、グビグビッとビールでも飲みたいな。

ビールの泡が消えて行くように、一つずつ、しかも急激に意識が遠のき疲れきった体が重

く、ベットに深々と沈んで行った。


第一回「ドラゴンの爪痕」第五章「トラブルトラブル・アジャスト」

実釣三日目朝、相変わらず直ぐに起きるが未だ少し眠い。どうやら自分には冷房が効き過

ぎているのだと昨日までに気付いて用心したが、やはり少し喉が痛む。まぁ大した事はね

ぇよ、と起き上がって少しだけ傾く船中の廊下をヨロヨロ歩きながらトイレに行き用を足

し、何時も通り快調に排出。洗面所で顔を洗い、目がバチッと覚める。2階に上がってイ

ンスタントコーヒーを飲んでタバコに火をつける。気温が上がれば喉の痛みも取れるだろ

う。それよりも朝日を反射する海が綺麗だ。天気が良くて空気も気持ちいい。

昨日の夜のミーティングでタイドスケジュール表を見せて貰ったが、干満の時間が全く同

じなので昨日と同じ時間の出発になる。日本で見る潮時表は毎日一定して時間がずれて行

くが、この海域は潮が混ざり合っていて複雑なのだろうか。

今日は自分がミヨシの日なので気合を入れなくっちゃ。スピニング右巻き左手ポッピング

左手フッキングも少しはマシになってきた。まぁ何とかなるさね。

先ずは朝飯前の一勝負。四人とも船に乗り込んで出発。今日は朝一から結構な距離を移動

する。「行き帰りの時間が勿体無いなぁ」と少し思ったが、10時間の約束だった実釣時

間を初日も2日目もオーバーしてクルーが頑張ってくれている。2日目の昨日は多分トー

タルで12時間は働いてくれたことになる。

朝飯前は少しやる気の無いバイトこそあるもののGTは全員ノーキャッチ。一瀬さんが釣

ったバラクーダがデッドになったのでレンジャーが仲間のレンジャーにあげる、と言い出

した。レンジャーの言うことは他に優先されるので遠回りしたが、ピンクビーチに友達レ

ンジャーはおらず強烈な匂いを放つバラクーダはリヤデッキ下に入れて持ち帰られた。次

の日にお頭の部分だけマザーシップの後ろに転がっていたが、自分達もあれを食べたのだ

ろうか?今でも不思議だ(本当はコモド島海域の魚は食べちゃいけません、死んでもリリ

ースが原則です)。

朝二のポイントはあまり潮が効いた感じの無い湾内のブレイクが絡んだ穏やかな場所だっ

た。二人が昨日GTをゲットしたのもこんな景色の場所だった。少し活性が良く、激しい

バイトがある。章司さんが一本釣り上げたが、自分のは針ががりしなかった。

何度かバイトが続いたがその内反応が薄れて小移動し、ワンドの出口の岬上の地形を攻め

る。ダツが猛スピードで岬から払い出す早い潮へ逃げって行った、その方向に間髪入れず

にキャスト、着水後直ぐにポッピング。完璧ではないがもうこの動作にはほぼ完全に慣れ

た。3回目のポッピングで潮下から潮上に向ってドッバーッッンと水柱が立ち次のポッピ

ング動作に入っていた自分のロッドがノされる。「つっ強ぇえー」流れが速いからか?い

や引きが何か違うし、GTなら真下に走るのにこいつは横に一目散に走り出す。少し対処

が遅れたがフッキングはゴゴンッと手応え充分。少し冷静になると、こいつはメチャクチ

ャ重たいという訳でもないのにスピードがベラボウに速い。もの凄いスピードで走りまく

るので中々ロッドを立てる事が出来ない。ザッバーッン一発ジャンプ!「うわっGTじゃ

ねーぞ!」その大型のバラクーダは着水後に手元にゴリゴリッとした感触を残して去って

行った。フックアウト。元々去年も最大魚でしかマトモに出て行かなかったドラグをあん

なにジャンジャン引き出していくとは、初めてカケたがバラクーダってのはすげぇスピー

ドだな。もしあれを専門に狙うならドラグは緩めに設定したい。しかし、昨日の最後にカ

ケたGTと今のバラクーダで左手フッキングにかなりの感触を掴んだ。右手の時より少し

反応速度は遅くなるが、充分使い物になると確信を持つ事が出来た。

ワンド内に戻りもう一度さっきのエリアを撃つ為に移動中、昨日今日今までの状況を頭の

中でプロファイリング。バイトこそあったが、潮流の効いた岬で食ったのはGTではなく

バラクーダだった。時折逃げ惑って水面を飛んで行くダツはサイズが大きい。今の所大規

模であっても小さいベイトのナブラにはいくら投げ込んでもバイトはない。どうやら今回

はティラノスマウスでやり切らないとヤバそうだ。

そう考えていると直ぐにジョバーンとバイト、昨日夜のイメージトレーニングで何度もや

ったように、糸ふけを取ってから素早く大きいストロークで渾身のフッキングを入れ、そ

のままひつこく何度も何度もゴンッゴンッゴンッゴンッとアワセを入れまくった。気持ち

は「トレブルフックの根元までブッさ刺したる!」て感じだ。バットエンドをギンバルに

差し込んでまた4回5回とアワセを入れ直す。これで駄目なら来年はキチンと筋トレしな

いと、もうGTはやめた方がいいぞ。そのくらい力の限りフックをブッ刺した。ドラグは

一切出なかった(出なきゃ良いってもんでもないですが)。上がってきたのはレギュラー

サイズのGTだったが、体の力が抜ける程安心した。案の定フックはペンチでグイグイ引

張っても中々外れなかった。「よっしゃ、とりあえずフッキング完成」けど、これで喜ん

ではイカン。喜びきってしまうといつもその後が続かない、ロクな事がない。かなり活性

が上がっているようだ。

アベレージサイズでも良い、何本か釣ってフッキングを完璧にしなくちゃ。この直ぐ後に

章司さん一瀬さんがGTを追加。次の流しで自分と花田さんがダブルヒット。自分が少し

先にヒットしたのと船中の混乱を避ける為にゴリゴリゴリゴリ少々強引にリールを巻く。

二本とも無事船に上げ、並んで記念撮影。ファーストランで少しドラグを引き出し上がっ

て来たこいつはそこそこの良型だった。釣れたら楽しいな。それにトップデッキで二人で

話していた花田さんとのダブルヒットも嬉しい。

何とかフッキングも実戦で使い物になるくらいには完成してきた。皆で「ここはGTの巣

だ!!」とはしゃぐ程に活性は上がり切っている。いわゆる一つのプライムタイムってや

つだ。一本目が11時。ダブルヒットの二本目が11時半キャッチ。多分もう少しこの状

況が続くだろう。今が勝負所だ。割とダラダラした地形から少しでも変化のある箇所を探

してキャストを繰り返して行く。前方、ほぼ一直線のブレイクに少しスリット状の凹みを

見つけキャスト。ミヨシに立った時はなるべく少しでも前方のポイントを見つけて撃って

行かないと同船者全員の効率が下がる。それに、しっかりポッピング出来る距離もその有

効性をも上げることも出来る。目視出来るスリットは、透明度が高いとは言ってもブレイ

クショルダーからせいぜい数メーター。その数メーターがほぼストレートなのが見えたの

で、その延長ラインをクロスする点の少し向こう側にティラノスマウスを着水させた。

ボッゴン!とポッピング一発、ドバシャッーーーーン!と真下から激しいバイト。ルアー

が水中へと消し込まれた。イメージ通りのタイミングだったので、早合わせですっぽ抜け

ない様に少し呼吸をおいてフッキング。良し!オッケイ、ギンバルにバットエンドを突き

当てて追い合わを入れてランディングまで、もう取り立てて心配な要素は無くなった。揚

がってきたのは先程より少し小さいまあまあサイズ、ファイトタイムは2・3分くらいの

ものだろう。もうこれでいつ自己記録GTがかかっても勝負出来るぞ、いつでも来い!い

や、来て下さい。

この3本目のGTのキャッチ後少し時間帯が変わったようで、バイトにやる気が無くなっ

て、その内反応が無くなったので移動。似たような景色を撃つも釣果は無かった。

何度も移動を繰り返した午後2時半頃、ここもまた似たような景色のワンドの出口付近で

ポッピングさせていたティラノスマウスが右から左にゾバッッ!と出た飛沫と共に水中に

引き込まれた。落ち着き、渾身の力を込めて「フンッ!」とフッキング。二度目、三度目

のフッキングを決めたその時、右側に変えてもまた少し調子が悪くなっていたハンドルに

逆回転の力が加わり、なんと海に”ドッポン”と落っこちてしまった。「ぁあああっ!」

と叫んだ自分に「どうした?どうした?」と自分の体の陰になっていて今の出来事が見え

ていなかった皆が不思議そうに聞く。自分が「ハンドル落っこちた!」と言うと、皆「は

ぁぁ?」と言った後に腹を抱えて笑い出した。いやっ、確かに相当面白いけどそんな場合

じゃない。本人は本当に困った。「すいません、もう一個のリールのハンドル外して取っ

てくれませんか?」と言いつつも、かけた魚は絶対にバラしたくないので、苦肉の策でベ

イルをクルクル手で回し始めたらまた皆が笑い出す。そう言えば去年もミヨシの時に、知

らない内に短パンのお尻が破れて皆笑っていたような‥‥。

ベイルを手で回したって追いつくわけが無い「笑い事じゃなく、ホントお願いします!」

と叫ぶと、章司さんが自分のリールのハンドルを外して貸してくれた(同銘柄を使ってい

た)。もう間に合わないかも知れないけど、諦めるわけにはいかないので、貸して貰った

ハンドルを急いで取り付ける。頭の片隅で「このハンドルを落っことしたら洒落にならな

い、きっと今度は笑ってくれないだろうな」と思ったが落ち着いて取り付けた。必死でリ

ールを巻くと信じられない事にまだちゃんと重みが伝わった。「いる、いる!」改めてフ

ッキングをしなおして揚がってきたGTはそんなに大きくはなかったけれど、あんなに放

っておいても外れなかったくらいだから、もうフッキングは完璧だ。

それにしても釣りの最中にハンドルを落とす日がやってくるなんて‥‥。章司さんにハン

ドルを返して、もう一度皆で笑った。まぁトラブルも楽しみの内の一つかな。自分じゃな

いほうが良かったけど。

その後は再びやって来た時合いで船中何本かのGTや他の魚(一瀬さんが釣ったスパニッ

シュマッカレルは羨ましかった。匂いが相当臭いバラクーダと勘違いして逃げたけど)を

キャッチした。そうこうする内にも時間は過ぎて行った。

あたりが薄暗くなりかけた納竿間近、最後の1キャスト。の着水から3ポッピング目で今

まで見たことも無いサイズのGTが、その魚体の大部分を水面に乗り上げ特大サイズの飛

沫を上げてティラノスマウスに襲い掛かった。「うわぁっ!」と心臓が鷲掴みにされた様

にバックン!と脈打つ。が何とか平静を保って、自信をつけてきたフッキングを力いっぱ

い入れてやる。一瞬でロッドがノされ、”グングンッ”と嫌な感触が伝わった瞬間にライ

ンブレイク、暫し呆然となる。

なんだ今のは?言葉が出ない。一瀬さんが「直ぐにラインが切れたんならバラクーダじゃ

ないの?」と言ったが、もしかしたらその通りかもしれない。いくらデカイと言っても、

いくら丸呑みにされたと言ってもGTだったら一発ブレイクはしないかもしれない。自分

が見た魚は確かにGTだったが、薄暗くなっていたので100パーセント見間違いが無い

とは言い切れないかもしれない。ただ、あの体高は半端じゃなかった。自分以外はドッバ

ーンという爆発音を効いただけで、他の方向を向いていて姿を見ていない。いや、あれは

GTだ。ただ体高が高くて歯の鋭い、遠めで見たらGTに良く似ている魚が存在するのな

ら分からないけど、自分が知る限りそんなのはいない。

ずっと首を傾げたままマザーシップに戻った。

明日はリアデッキの順番だ。一番チャンスの多いミヨシの順番で4本のGTが釣れて良か

った。ハンドルは落っことしたが、状況から言ってワンタックルで充分だ。ただ、残った

1台もハンドルの調子が相当悪くなっている。何とか騙し騙しやるしかない。

シャワーを浴びる間も飯の最中も、花田さんとトップデッキでノットをやり変えている最

中も、今日最後に見た魚が何度もフラッシュバックする。

次に明らかにあれよりもでっかいのを釣るまで、あの魚の事は忘れられないだろう。

この夜章司さんとの間で軽い話し合いがあった。最終日にコモドドラゴンを見に行くかど

うかについてだ。章司さん自身は去年の時点でコモド遠征3回目だったが、自分も含めて

残り3人は初だった為リンチャ島(コモドドラゴンは世界中でコモド島とリンチャ島にし

かいない)にドラゴンを見に行った。今年は花田さん以外4名中3名がコモド遠征経験者

となったので、思った様に釣果の上がらない中どうしたもんか。花田さんが少しでも興味

があるのなら、ここまで来て見ないのは凄く勿体無い。自分も釣り人としての気持ちを差

っ引けば、是非もう一度見てみたい気持ちも無いではない。どう思っているか聞いて欲し

い、と章司さんに頼まれて自分が花田さんに聞くことになった。トップデッキで明日の用

意をする中、それとなく「明日コモドドラゴン見に行くのどうしますか?」と聞くと、か

なり間を空けて「ワシは別に見んでもええよ」と言ったが、目を合わせずに少し下を向い

ていた。あぁ花田さんはもう既に見たことのある自分達に気を使っているだけで本当は見

たいんだな、と分かったので「折角ここまで来たんだから遠慮しないで良いですよ。自分

も見たいし、釣りの時間はいっぱいあるし」と申し出ると「じゃあ、行こか」と言ってニ

コッと笑った。

体温を落とさない為に、念の為に持ってきた長袖のシャツを着込んでベットに転がった。

昨日より少し寝つきが悪かったが、10分と経たない内に無意識の世界へとダイブして行

った。

 

 


 第一回「ドラゴンの爪痕」第六章「トラブルトラブル&トラブル」

31日実釣4日目最終日、朝。異変に気付く。「あ”ー、あ”ー」なんなんだこの喉の痛

みは、昨日の朝までの痛みとは明らかに違う。やっちゃった。薄手の長袖シャツくらいで

はおっつかなかったみたいだ。メッチャクチャ痛い。徐々に目覚めていくと頭もガンガン

し寒気もする。洗面所に歩いて行くと景色がボワーンと歪んで見え、眩暈すらする。完璧

に風邪だ。いや、風邪か?これは酷すぎるぞ。

体調が悪くなっても食欲が無くなる事はよっぽど無いので、朝飯はたらふく食ったが寒気

が納まらない。宿泊4日目でもう慣れてきた手順で船に乗り込むが、少し足元がフラフラ

する。昨日マザーに戻る途中から降り始めた雨はかなり激しく、未だ空の色は不安定だっ

た。が、その雨の影響かノーバイトだった朝一の出撃から帰る頃には少し晴れて気温が上

がり、それと共に少し体調は回復‥‥したと思い込んでしまったのがいけなかった。

この日は午後に入るまで何事も無く、未だ一本の釣果の無いままコモド島にドラゴンを見

に行く事になる。潮止まり時間だし、まぁ良い気分転換だ。

潮が一番引ききった時間帯で、座礁しないように自分とクルーの一人がミヨシに見張り番

に立つ。コモド島への上陸は、先ずフロート式の桟橋に船をつける。そこから木製の階段

を登って本番の桟橋に上がるのだが、桟橋じゃなくて木造の建物と言って良い位高い。そ

こから島の入り口に向う。釣りの次の次くらいにカッコイイ動物が好きな自分はまたコモ

ドドラゴンが見れる、とテンションが上がった。島のレンジャーに説明を受け(英語だっ

たので1割くらいしか分からなかったが)島を半周するコースを歩き始めて直ぐに中くら

いのドラゴンは見れたのだが、珍しい木や綺麗な鳥なんかはいても本命のでっかい奴には

会えない。

コースをグルッと回ってから別の道を行き、途中現地語で声をかけてくる物売りの集団を

軽く無視して東屋に着く。コーラを飲んで休憩しながら「でっかいのいないねぇ、ガッカ

リだよ」なんて話していると、ビーチにデカイのがいるぞ、と知らせが入ったので急いで

向う。ワクワクッ。

「おおー、かっこいーー」なんでこんな所にいるのか?ビーチにちょろっと生えた草のそ

ばでデローンとやる気なさげに寝っ転がっていた。写真写真!ひとしきり撮り終ると、サ

ービスなのかレンジャーが差す又でドラゴンを突っついて起こし、走らせた。「おいおい

大丈夫かよ?」ドラゴンに一噛みでもされれば3日後には毒(雑菌)が回ってお陀仏らし

い。病院はバリ島まで行かないと無い。去年聞いた話では噛まれた現地のおじさんが、自

分達が釣りで乗っていたボートに乗せられて病院へ行ったが、一命は取り留めたものの頭

がパラッパラッパーになったらしい。「3の時とコモドドラゴンに噛まれた時だけアホに

なりまーす」って言ってる場合では無いのだ。とは言え、すげー面白いので4人とも必死

になって走るドラゴンを追っかけながら写真を撮った。あぁ面白かった。

昼食の弁当を食ってからも暫く何も無かったが夕方近くにまたラッシュがやって来た。こ

のラッシュで章司さんが釣ったGTが文句なしに今回のビッグフィッシュ賞だった(トラ

ベルプロのホームページから山田さんのブログを見ると、自分が濡れたデッキに寝っ転が

って撮ったカッチョ良い写真が載っています)。5時前くらいに自分も一本上げたが、全

然納得の行かないサイズだ。もう時間が無い。このチャンスに目標サイズを揚げなければ

また来年までここで釣りは出来ない。最後まで兎に角焦っちゃイケナイ、と自分に言い聞

かせた。次々間髪入れずにキャストし、ポッピングは逸る気持ちを抑えて丁寧に強く、回

収はフルスピードで。って回収してピックアップしようとしたルアーに直ぐそこ2メート

ルくらいの所でバシュッと出てGTがルアーを持って行くのが見えたが、サイズが良くて

も10〜15キロくらいだったので、ワザとフッキングせずにリールをゴリゴリ巻いてフ

ックアウトさせた。「お前じゃないんだって!!」あれだけ焦らないように心の中で自分

に言い聞かせていたが、もうこれが最後なんだと思うとレギュラーサイズのバイトにイラ

イラしてしまった。

結局2日目3日目にバイトしてきたようなモンスターサイズのGTは、最終日の今日ティ

ラノスマウスに襲い掛かる事は無かった。そしてトラブル続きだった今年のコモド釣行は

素っ気無く終わって行った。

 

マザーに戻る時は寂しさも感じたが、なにかを気にしたまま過ごすのは嫌いだ。直ぐに今

夜の年越しバーベキューの事を考える。「今日は飲みますよー」と言うと花田さんが「ワ

シも飲むぞ」一瀬さんも「俺も」って一瀬さんは毎日ビンタンビール飲んでたじゃん。章

司さんは‥‥強そうな見た目とは裏腹にお酒が飲めない、もっぱらマンゴージュース派。

「結局何本釣った?」という話になって一瀬さんが5本・章司さんと自分が4本・花田さ

んが3本(多分)って事になったが、この記事を書く為に写真のデータを見たら5本釣っ

ていた。それにしても釣れなかった感が大きいが、思い返してみればモンスターサイズが

出なかったとは言え、4人で20本近く釣って他にもバイトやバラシが沢山あった。叩か

れすぎて釣れなくなった、という噂は眉唾ものだ。サイズが出にくいのは他の海でも一緒

だし、あるとすれば水温の変化等他に原因があるのだろう。それに叩かれていると評判の

水域で目標越えを達成すれば、その分エンジェルズエンジンルアーの誉になる。まだ少し

迷いもあるが、結局来年の今頃もここで釣りをしているだろう。

 

シャワーを浴びて待ち時間の間にビール3本で助走をつけ、さあパーティーだ。頭の中は

「パーリー!パーリー」とすっかりお祭りモード。ダイバーさん達もクルーも全員揃って

乾杯!クルーの女の子にアラックという現地の焼酎みたいな酒を勧められロックで飲む。

結構キツイが何故かあまり食欲が無いので、殆ど食わずに2杯、3杯と飲む。その内何杯

飲んだか分からなくなって、ようやくエンジンに火が入った。演奏会などがあって一旦お

開きになるが、仲間達と歌って年を越そうというのかクルー達が2階のデッキ部分に集ま

って大声で歌を歌って太鼓を叩きギターをかき鳴らしている。楽しくてしょうがない状態

の自分は最初はダイバーの人何人かとその輪に混じってカスタネットを叩きながらまた飲

んだ。その内相当酔いが回ってフル回転トップギアに入った。現地クルーと一緒に調子に

乗ってクルーの女の子に何杯も何杯も強い酒を飲ませたが、それが異常に盛り上がって今

度はダイバーの女の子を捕まえて飲ませる。挙句の果てに酒の飲めない章司さんにまで強

い酒を一気飲みさせてしまった(本当にごめんなさい)。その内全員避難してしまったの

か現地クルーと自分以外は誰もいなくなった。クルーから太鼓を取り上げて叩き始めたが

これが訳も無く面白くってしょうがない。一曲終わったと思うとまた続いて、やっと終わ

ったと思うとまた始まってキリが無い。後から聞くとこの時の自分は殆どトランス状態だ

った様だ。知らない内に裸になっていた(誰かに脱がされた?いや絶対自分で脱いだに違

いない)。すっかりクルーと打ち解けて、その内皆で回し飲みしていた薄ピンク色の訳の

分からない怪しげな酒を勧められた。って、しかも日本式の湯飲みで。もう味なんて全然

分からん。飲めりゃ何でも良いぞぉー!

皆の分の酒を殆ど自分が飲み干してしまう迄にそれ程の時間はかからなかった。クルーが

「ツマキさん、酒無くなったーよ」というので新品のボトルを皆にご馳走して、又自分も

飲んで太鼓を叩き続けた。掌が痛くなって、その内その痛みは消えて燃えるように熱くな

ってもずっと叩き続けた。ずっとこの時間が終わらないんじゃないか?という恐怖にも安

堵にも似た感触が自分を包んでいった。

この宴がどのタイミングでどうやって終わったのか、ぜんっぜん思い出せない。グッデン

グデンのベロンベッロンだ。

俺何しに来たんだっけ?という事すら思わなかった。何も考えられなかった。


第一回「ドラゴンの爪痕」第七章「ズタボロンの帰還」

朝、目が覚める。ここはどこだ?「ん”おーっ」頭が割れるように痛い。思わず顔をしか

める。ベットの上だ。完璧に二日酔いだ。気付くと昨日着ていたTシャツとは違うのを着

ている。???誰かが着せてくれたのかな???自分で着たんだろうか。何か考えようと

すると頭の中を太い鉄杭が貫いて行くように強烈な激痛に見舞われる。この時他の3人が

周りに居たのか居なかったのか思い出せない。何かのきっかけで声を出そうとすると、喉

にも激痛が走った。「おいおい二日酔いだけじゃないぞ、こりゃ。やっちまったなぁ」と

思ったってもう遅い。朝飯を食ったかどうか分からない。片つけて荷作りをした記憶は少

しだけある。まだこの日も宿泊するダイバーさん達やクルーの皆に”バイバイ”をした覚

えも無い。ラブハンバジョ迄の道のりも記憶が飛んでいる。確かプラナントが着いてきて

くれた気がするが定かじゃない。プラナントとは「バイバイ」をした気がする。一瞬でも

時間があれば直ぐに眠りにおちた。眠るというより気を失っていただけだ。他の3人に迷

惑は掛けられないので荷物は何とか自分で運んだ。これはちゃんと覚えている。

ラブハンバジョからデンパサールのフライトの間もずっと気を失ったままだ。デンパサー

ルについてこの日宿泊するホテルに向かう為に荷物を運ぶ。立っているのもやっとで、直

ぐにへたり込んで人目を気にする余裕も無く、空港のタイルの床で立ち止まるたびに眠っ

た。朦朧としながらもタイルが冷たくて気持ち良いと感じた。相当な熱があるようだ。空

港内でぶっ倒れていると係員が4・5人駆け寄って来て、自分の腕を取って脈を取り始め

た。遠のいたり戻ってきたりする意識の中で、おいおい何脈計ってんの?俺は死んじゃい

ねーぞ、と思った。息を吸うだけで激痛が走る喉を気にしながら「オーケイ、オーケイ。

アイムオーケイ」と何とかそれだけ言った。こんな所で病院送りにされて堪るか。

昼飯は食わなかった。3人が夕飯に出かけている間も眠り続けた。たまに目が覚めると、

何とかチョコレートと水とジュースを口に押し込み流し込んだ。部屋にあったチョコレー

トは全部食べた。殆どマトモに意識が無かったが、兎に角チョコレートだけは貪る様に食

った。味なんて殆ど分からない。同室の章司さんが戻って来て少し話したが、その他は死

んだ様に眠り続けた。デンパサールでの事はあまり覚えていない。あぁ、空港に向う途中

に”お茶の間”という日本食レストラン(喫茶店みたいな感じで去年も行った)に入った

な。何か食ったような気がする。

デンパサールでの出国手続きの間も柱にもたれたりしながら順番を待った。床で寝たかっ

たけど、昨日みたいに係員が寄って来て万一出国させて貰えなくなったら最悪だ。

デンパサールからシンガポール空港、シンガポール空港から中部空港に戻る迄の間で覚え

ているのは、章司さんが喫煙ルームに居る間その前で荷物を抱えて寝ていた事くらいだ。

確か一瀬さんが「そう言えば妻木くんずっとタバコ吸ってないね」と言ってた気がする。

どこで言われたんだっけ?一瀬さんと花田さんとはシンガポールでお別れだったはずだが

覚えていない。他は全てが曖昧か全く記憶が無い。

中部空港に着いた時にラブハンバジョからここまでが、まるでビデオの巻き戻しの様に感

じた。10倍速の巻き戻し。行きと同じ道のりを10倍に薄めてひっくり返しただけ、そ

んな風に感じた。そう言えばフライト中一瞬「皆に病気うつらなかったかな?」と気にな

ったが、ホテルでも同室でずっと一緒に居た章司さんはピンピンしている。風邪じゃない

んだろうか?天狗熱かな?

案の定入国管理でストップがかかった。「どこか調子が悪い所がありますか?」「いや、

全然?」ウソつけっ!死にかけてんジャン!しらバッくれようとしたが、今はサーモグラ

フィーという憎ったらしい文明の利器があるので「全身真っ赤に写ってますけど」「うー

ん、そう言えば少しだけ喉が痛い気が」ウソつき啄木鳥。別室に連れて行かれて何だか犯

罪者になった気分。この件の前後が一番意識がハッキリしている。

熱を計ると少し火照りが納まったと思っていたのにそれでも殆ど40度の熱があった、が

何故か簡単な検査だけで帰る事が出来た。「違う症状が出たら病院に行って下さいね」っ

てかなりいい加減だなー、おい。待ってくれていた章司さんに「待ってて貰って、すみま

せん」と謝ってからは又意識が遠くなる。荷物がベルトコンベアーで出てくるのを暫くボ

ーッとしながら待ってピックアップし、フラフラそれを運んで出口で章司さんとお別れす

る。

パーキングに電話をかけて迎えを待つ間も気を失いかけるが、南国からいきなり1月の日

本。あんまりにも寒くて気を失うに失えない。頭の痛みがガンガンからゴンゴンへと変わ

って、頭に心臓があるのかっ、てくらい脈打つ。

パーキングから一人で車を運転して帰らなければならないが、ハンドルを握る手から激し

く悪寒が走る。目が眩み、視界が狭い。景色がグンニャリ歪んで見える。ぁぁ、早く家に

帰りたい。帰りたい。知多方面から名古屋高速に入る頃になると、時々意識が飛ぶのが自

分でも分かった。コンクリートの壁スレスレ迄車がよろけて何度も後続車にクラクション

を浴びせられた。意識が飛んでしまわないように目に力をギュッと入れる。が、知らない

内に眼球がひっくり返ってまた力を入れての繰り返し。半分目をつぶって運転しているよ

うなもので危険極まりないが、家に帰りたくて帰りたくてしょうがない。それにしょっち

ゅう寝ずに釣りに行っているのでこういう状態の運転に慣れもある(その内事故って人に

迷惑をかけるぞ、そうなる前に気をつけなきゃ)。

東名阪に入ったのも降りたのも、家に着いたのも覚えていない。事故って死ななくて良か

った。

1月3日の午前中に帰宅してから4日の夕方まで、途中這ってバッグの中からチョコレー

トを取り出して口に詰め込んだ以外は、捨てられたマネキン人形のように眠り続けた。

次の日はあまり変わらない症状のままオフィスに出社、気を失いかけながら仕事をこなし

た。帰宅後から始まった下痢に一週間以上悩まされた。その間飯は擦ったリンゴやお粥で

あとはチョコレートで過ごした。食ったら食った分だけ全部下から出て行くが、固形のモ

ノが食えないのでユルユル。全部出切っても便意が治まらず、家でも会社でも辛く長い時

間をトイレで過ごした。

その間も週末には管理釣り場や乗合船で釣りをした(ドラゴンスケルトンで7キロの鰤を

ゲット!)が、1月が終わる頃までセキが止まる事は無かった。それにしても誰にもうつ

らなかったこの症状は何だったんだろうか?今でも分からない。きっと体力が一度ゼロに

なって底を尽きたのだろう。

1月の半ばにはこれから先の対GT戦略に関して真剣に考え始めた。今年は国内遠征デビ

ューを果たしたい。どんな状況でもマックスクラスのGTを狙って行く為に、新型ポッパ

ーともう一種類のルアーの構想を立ち上げた。

長くかかかったこの原稿の執筆も2月に入って、ようやくこうして脱稿する事が出来た。

悔しい気持ちは目標を達成するまで決して消えはしない。絶対にマックスクラスのスーパ

ーモンスターGTを捕ってやる!

 

 

最後に迷惑をかけてしまった章司さん一瀬さん花田さん本当にすみません。機会があれば

懲りずにまた一緒に釣りをしましょう。クルーやダイバーの皆さん、調子に乗って騒いで

ゴメンなさい。トラベルプロの山田さん今回も遠征の手配ありがとう。

 

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