Expedision(account of voyage)

 

 

 


第二回「春、かよ!」第一章「博多の夜・姪の浜の朝」

仕事で色々あり結局昨日は寝る事が出来なかった。’09年3月19日。今日は終業後に

職場から直接車で中部空港に向かう為にいつもより早く5時50分頃家を出た。

何しろ眠い。コンビニで缶コーヒーとタバコを買う。飴を買うのを忘れたのでもう一回他

のコンビニに寄って、いつもは買いだめしないタバコもタスポを持っていない為遠征先で

イライラするのは嫌だな、と思ってもう一箱買った。カートンじゃなくて20本入りの一

箱。昨日封を開けたモノと合わせて2箱と半分くらい。ヘビースモーカーではないのでこ

れで暫くもつ。

渋滞を恐れてかなり早めに出発したので1時間以上早く着いてしまった。最近は街中に路

駐しておくとロクな事にならないので直ぐに近くのコインパーキングに車を入れる。ここ

がこの辺で一番安い。10時間以上停めていると2000円が上限になってそれ以上料金

がかさまないシステムになっているので早々に入る事にして、出口に近く死角になりにく

い場所に駐車して仮眠を取ろうとシートを倒した。が、変に高揚していて眠れないのでブ

リーフケースに忍ばせた小説をゴソゴソ取り出して読み始める。エロい所を読んでいたら

余計に目が冴え、イカンイカンと思い直して20分程寝てから携帯の目覚ましで「うーー

ん」と起きてノコノコと出社する。仕事でトラブルを抱えているので少し気が重いが、そ

れをやっつければ心待ちにしていた九州行きが待っている。「今日もポチポチ頑張りまっ

しょ」と思い直してエレベーターに飛び乗った。

  

仕事が終わってパーキングに向う。季節の変わり目のせいか先週くらいから喉が痛い。ふ

とコモド遠征のあの惨状を思い出したが、体力的にはかなりの余裕がある。あんな酷いの

は5年か10年に一度だけだ。大通りを抜け高速に乗って空港に向う。信号待ちで福岡空

港に迎えに来てくれると約束している同じ会社の九州支店の子に電話を入れた。「今から

中部空港に向かいまーす♪」さあ、いよいよだ。

前回から駐車をお願いしている”アット・エルカ”というパーキングの最寄のインターチ

ェンジで降りた時に「あっ、着替えてねーや」ってことに気が付いて、車通りの少ない場

所に車を停めてしばし誰も見たくないストリップショー。スーツから普段着に着替えてパ

ーキングに向った。

パーキングに到着して受付を済ませた所で明日の出船確認をしなきゃと思い出したらジャ

ストのタイミングで東野船長から電話が入った。「おおっ、船長今電話しようと思っとっ

たとこだよ」「妻木ちゃーん、ゴメン明日駄目だわ‥‥」「えぇっ、まじで?」「風が強

いんよ、けど明後日は大丈夫だよ」「まじで?」「ごめんねー」「いやいや船長が悪いん

じゃないけど‥‥まぁしょうがないよね、取り合えず今から飛行機乗るわ」「うん、明後

日は大丈夫だから」うわー、ノッケからつまずいた。けど自然相手の遊びだからどうしよ

うも無いっす。「そういえばさぁ船長、今日居酒屋やってるよね?若い子連れて遊びに行

くよ」東野船長は昼間船に乗り夜は居酒屋を自分で切り盛りしているのだった、が「あぁ

あれねぇ、やめたんよ」どうやら体を壊して船長業に専念する事にしたらしい。前に釣っ

た魚を形にただで飲み食いをさせて貰い、今度は会社の子達を連れて行こうと思っていた

ので二重に残念。

  

空港で手続きを済ませて喫煙ルームで吸い貯めをしておく。しばらく吸えないからと思っ

て吸い貯めをすると大抵は余分に吸いすぎて気持ち悪くなる。

しばらく所在無くブラブラしていると登場時間が来て機内の人に。出発に遅れは無いよう

だ、よし順調順調。

どうせ明日はする事が無いので機内で寝るのもやめにしてサタミショウという作家の小説

の続きを読んで、それを読み終えると機内販売の冊子をペラペラめくる。機内販売の商品

はたまに「おっ、これいいじゃん」ってモノがあるが勿論買った事はまだ一度も無い。何

となく通信販売でハズレを引いた時の様に、商品が届いたら「なーんだ、こんなもんかガ

ッカリ」となりそうに思ってしまう。モノマガジンみたいに見るだけの暇つぶしには最適

なのだけど。機内販売の冊子も2周したので最後は航空路線図で対馬周辺をジーっと眺め

る。なる程こんだけゴチャゴチャした形の島々が沖に点在し、しかも潮が入り混じってい

ればデカイ魚がいっぱいいる訳だよ、と改めて変に納得がいった。だいぶ時間を潰せたが

もうやる事がなくなってしまった。何もやる事が無ければ1時間半という時間も結構長い

もんだ。けど直行便があれば日本中何処でも2時間もあれば行けてしまうのだから、今更

ながら飛行機ってスッゲー。

少しウトウトしていると着陸態勢に入り無事到着。到着後は同時間に到着した東京からの

便に待たされてなかなか降ろして貰えない。こういう時間は慌てても仕方が無いので取り

合えず機内の天井をボーっと眺めて半分気を失っていた。あんまりズーっと眺めているの

で通路を挟んで反対側の席に座るご婦人が自分の顔と天井を交互に見て不思議そうにして

いたが、その内興味を失ったのか雑誌に視線を移した。

15分ほど待たされてようやく機外へ。会社の子が迎えに来てくれていて待たせては申し

訳ないので、イライラしながら荷物が出てくるのを待つ。ようやく荷物をピックアップし

てターミナルの外へ行く。もう彼らは到着して待ってくれていた様だ。いつも九州遠征の

たびに空港に迎えに来てくれるK田くんと今回は女子社員のTさんも来てくれた。空港か

ら3人で飯を食いに向う途中ヤッパリ風が相当強かった。まぁ良い、折角だから美味いも

ん食いに行くべぇ。

船長の居酒屋の経営者が変わって行ってもあまり意味が無くなったので、いつものモツ鍋

屋にK田くんが予約を取ってくれていた。ここのモツ鍋はムッチャンクッチャンに美味い

ので九州遠征のたびに楽しみにしているのだが、未だに店名が分からない。今回は覚えて

帰ろうと思ったのだが鍋に夢中になってしまい結局忘れてしまっていた。5月遠征の時に

は忘れずにちゃんと紹介したいと思います。本当にメッチャンクッチャンのベラボウに美

味いんだから!♪

3人でしこたまモツ鍋を食いまくりTさんがビールを飲んで、明日釣りが無くなった自分

はここぞとばかりにハイボールを飲みまくった。K田くんは運転なので我慢して貰う、い

つもすまないねぇ。K田くんは5つ、Tさんとは12こ年が離れていて自分が二人の話を

聞いてあげなくてはイケないのに酔いも手伝ってべらべら喋ってガハガハ笑った。二人も

楽しそうだったからまぁいいか。締めにちゃんぽんの麺を入れて三人とも腹一杯だったが

これもツルっと平らげた。

日付も変わってしまったのでTさんをマンションに送って自分はホテルに送って貰った。

K田くんを見送ってホテルへ入り鍵を受け取る。今回もビジネスホテルいずみ屋さんにお

世話になる。

 

「あぁ明日はやる事がないなぁ、水族館にでも行ってみようかな」などと考えながらテレ

ビのスイッチを入れ、ワウワウで映画を見る。Sくんが電話を掛けてきてくれて30分程

お喋りした。「いいなー九州、俺も行きたいなー、絶対釣れるでしょー」「えー、プレッ

シャーかけんといてよ、明日出船しないしさぁ。やる事無いよ」Sくんが遠征の日程を覚

えていてくれて少し驚いた。Sくんとの電話を切ると部屋には映画の画像が放つ光と音だ

けが残った。

昨日も寝ていないのになかなか眠くならない。そういえばこの間SくんとY木くんに「妻

木さんは睡眠障害だ」と冗談半分に言われたが本当にそうなのかもしれない。

朝方6時頃まで映画を見て流石に眠たくなって風呂に入り、シングルが無かったのでツイ

ンの部屋の片方のベットにロッドケースを置き、もう片方に寝た。7時頃だろうか、辺り

はすっかり明るくなってしまったが、自分は気を失う様に眠りに落ちて行った。

深く深く。ネットリとした泥に埋まる様に。

こうして何一つ釣りに関する出来事の無いまま博多の夜と姪の浜の朝が静かに過ぎ去って

行った。

 


 

第二回「春、かよ!」第二章「怪物と朝の市場」

朝起きた‥‥てもう朝じゃない、昼だ。時計を見るとあと20分程で正午だ。

もう今更出かけるのも億劫なので、飯を食いに行く以外は部屋で過ごす事にした。水族館

は又今度だ。今度がいつなのかは神様しか知らないし、神様だってそんなしょうも無い事

は知らないのかもしらん。

ホテルから30メートルくらいの所に”バンバン”という小さな中華料理店があるので昼

飯を食いに行く。なんか頭がポーッとする。餃子定食550円に50円プラスしてご飯を

大盛りにして貰う。本棚に置いてあった”のぞき屋”というマンガを読みながら餃子を口

に放り込むが、これがまた美味い。他の地方に仕事でも何度か来た事があるが、九州の飯

は総じて美味い。こちらの餃子は上品な女の子の口で言う一口大の大きさで、どこで食っ

ても大抵はハズレが無い。白味噌の味噌汁と小鉢ともう一品ついてこの値段は結構安い♪

安くって美味いのが九州の飯なのだ。店員さんも控え目な人が多い気がする。九州に一度

も来た事が無かった時は、皆が皆豪快で大酒のみでアッケラカンとしているのかと思って

いたが、何度も足を運んでみるとそうでもないみたいだ。意外と口数が少なく物腰が柔ら

かく感じの良い人が多い。嫌いじゃない、ていうか少なくとも一番足を運んでいる福岡は

好きな街だ。

餃子定食大盛り600円を平らげて、マンガも1巻読み終わったのでお勘定をして店を出

た。部屋で少しボーっとしてりゃ直ぐまた夕飯だ。その足でコンビニに行ってコカコーラ

ゼロとザク切りタイプのポテトチップスとマンガを2冊買って帰った。

部屋で買ってきたエロマンガを読んでから”釣りキチ三平”の”夜鳴き谷の怪物”を読ん

でいる内に何度か寝てしまい。読み終わる頃には夜になった。「あぁ、どんな魚種でも良

いから”怪物”釣りたいなぁ」

近くに他の飯屋は無いが目の前に西鉄ストアがあるので、夕飯は惣菜コーナーで調達する

事にした。7時を過ぎていたので半額になっているモノが多く、「うわっ安いなぁ」と思

うと何故かテンションが上がって品物を選ぶのに夢中になった。普段スーパーに入るのは

釣りのおやつのバナナを買う時くらいだから、何だか一人暮らしの学生か主婦にでもなっ

た気分だ。意味無く楽しい♪明日の朝飯と船の中で食う飯も買って行こうと考えてハンバ

ーグ弁当と焼きそば・太巻き・2リッターのビタミンガード・お茶・5個入りのチョコパ

ンと3個入りのデッカいパン‥‥今夜食うデザートはプリンにするかヨーグルトにするか

真剣に悩んでいると携帯の呼び出し音が鳴った。東野船長だ。「妻木ちゃん明日大丈夫だ

よ」と聞いてホッとする。一度悪天候で三日間まるまるビジネスホテルで過ごした事があ

るが、もうそれはゴメンだ。明日は予想通りヒラマサ狙いになるようだ。この間までは七

里に行っていたがサイズが伸びなくなってきた為に、明日は壱岐に行くそうだ。なにはと

もあれ釣りが出来ると分かって一安心一安心。安心したのでプリンを買うのを忘れてしま

ったが、そんな事はどうでも良かった。

今日は部屋をツインからダブルへ移ったので昨日よりも更に快適だ。シングルが長期滞在

者で埋まっていたので同じ料金で泊まらせて貰ってラッキー。いつもより広々とした部屋

で明日の支度をソソクサとやっていく。「あぁ釣りが出来る。竿さえ出せれば怪物がルア

ーを食ってくれる可能性がゼロじゃなくなるって事だ。0.1でも0.01パーセントで

も可能性があれば夢見る事が出来るがゼロはいかんゼロは。どないもこないもあらしませ

ん」タックルをまとめてドアの横に並べてから、ベットに寝そべって半額で250円のハ

ンバーグ弁当を食らう。いつもそうするのだがビジネスホテルのユニットバスに無理やり

お湯を張って浸かる。湯を抜く時に気をつけないと床がベショベショになってしまうので

風呂が終わったら栓を半開にして少しずつ放水しないといけない。でもどうせ風呂に入る

ならシャワーじゃなくて湯に使った方が気持ち良いに決まっている。いつも家では一週間

に1・2度風呂に入らない日があるけど‥‥。

サッパリしてさっさと寝ちまおうと思っていたが寝れなくって3度ほど風呂に入りなおす

事になるのだが、結局この日もほぼ一睡もせずに待ち合わせの6時30迄あと1時間を切

ってしまった。今更寝てしまったら起きられないかも知れない。

6時20分、小さなロビーのソファーに腰掛けてタバコに半分壊れたターボライターで火

をつけ大きく煙を吸い込む。こちらに来てから暇で暇でタバコばかり吸っていたので少し

気持ち悪くて頭が痛いが朝の一本はまた別だ。

 

 6時35分になって少し心配になったので、ロビーから出て通りで待っていたら5分程し

て船長が軽トラックで迎えに来てくれた。「ごめーん、寝坊しちゃった」忘れられていな

いのなら10分くらい遅れたってどうって事は無い。荷台にタックルバックとロッドを差

し込んで出発「船長久しぶり」「久しぶりやねぇー」前に見たときよりも少し疲れている

様に見える。無理が祟って糖尿になったそうだ。無理は禁物、自分もめちゃくちゃは少し

控えて体に気をつけなければ。

10分も立たない内に港に着いて、先ず倉庫みたいな建物に入って船長が水槽に入った沢

山のヒラマサを次々と〆て行く。中には80センチ後半くらいの奴も混じっていて「船長

これ結構デカクねぇ?」「こんなん小さいよ」「まじで?」「まじでまじで」やっぱ九州

の海は反則だ。地元の海ではヒラマサが釣れる事は殆ど無いので、写真でなく自分の目で

本物のドデカヒラマサを見たことが未だにない。以前に海楽隊で釣ったヒラマサは60セ

ンチ後半程だったが当時の自分にとってその強い引きと大きさのギャップは衝撃だった。

目の前で船長に〆られているこのヒラマサだったら…10キロ・15キロいや20キロの

ヒラマサだったら…と思うと身震いがする。

〆た魚を市場に卸す為に小さな市場に立ち寄る。市場と言うよりも小さな集配所・集積場

の様な場所だ。自分はやることが無いので、その場所に発泡スチロールに入れられて綺麗

に集められた魚介類を眺めていた。「んっ、ボラがいる」こちらの人は好んでボラを食う

ようだ。

車に乗って一度コンビニに寄って船長が弁当を買ってまた港に向かった。メーカーのステ

ッカーがデカデカと貼ってある船、この船を見るのも久しぶりだ。今度エンジェルズエン

ジンもステッカーを作って貼って貰おっと。

自分も船に乗りタックルの準備を始める。昨日殆ど無為に過ごした分だけ余計に今日釣り

が出来る事が嬉しくて堪らない。先ず黒マグロのキャスティング用のタックルにマッドフ

ラミンゴTNをセットして船べりにフックを引っ掛けドラグを設定する。次にジギングロ

ッドにフレイムをセットしロッドを曲げ込んでこっちもドラグセッティングを出そうとし

てラインを思いっきり引っ張った。リールをかなり酷使しているのでドラグの滑りがかな

り悪くなっている。「あれ?なかなかラインが出ないな…」

トラブルとは得てしてこんな楽しげで気の緩んだ時に起こるものである。

自分の九州遠征の実釣編はこの致命的なトラブルから始まるのだが、さて…。

 


第二回「春、かよ!」第三章「3分割のスタートと春」

少しウキウキしながら、ドラグを調整する為にロッドを曲げ込みラインを強く引張った。

先日もう1台程度の良い中古を見つけてダイワの4500番を購入したのだが、元々2台

ある内の1台は酷使のあまりドラグの滑りがかなり悪くなっていた。片方のリールは主に

キャスティングで使用していて使用頻度が比較的少なく、この前8キロの鰤とやり取りし

た時も淀みなくドラグが働いて気持ちの良い音を出していたのだが、こっちのはジギング

にもキャスティングにも使用しかなりのヘビーユーズだ。ドラグの不調にはかなり前から

気が付いていたので「もうそろそろドラグのオーバーホール出さなきゃな」とは思ってい

た。「あれ?なかなかラインが出て行かないな?」と思っていると

 

バッッキーン、ボキッ!!!

 

という音を立ててロッドがブチ折れてしまった。あまりの事にビックリして目を白黒パチ

クリさせていると船長が寄って来て「なにしとーん?」と言ったが綺麗に3つに折れた竿

を見て笑い出した。見た目にもボッキボキだ。「うぅぅわぁー、これメインロッドなのに

ぃー」半ば呆然として立ちすくんでいると船長に「まぁデッカイ魚がかかってからじゃな

くって良かったんとちがう」と言われて、妙に納得して仕方なく諦めた。もう一本これよ

りも一つ強い竿を予備に持っているのでそちらを使う他無い。選択肢は無いが釣りさえ出

来れば、後は一生懸命工夫をすれば良いのだ。これはこの前のコモド遠征の時に学んだ事

だ。トラブルはツキモノだし、今回は100パーセント自分の不注意だ。ロッドに傷が入

っていたのかも知れない。あまり神経質になるつもりは無いが肝心要のドラグだけは定期

的に点検修理に出さないと、デッカイのを掛けた時に後悔したってもう遅い。

これはルアーの神様がプレゼントしてくれた”転ばぬ先の杖”なのだ。船長が何気なく言

ってくれた言葉でそう思う事が出来た。

 

ノッケからトラぶったが自分は怪我をしていないし、1回も実釣で使った事が無いとはい

え予備竿だってちゃんとある。それで充分じゃん♪

午前8時。出船だ。今日はまだ昨日の風が残っているのでいつもより出船を遅らせたそう

だ。海が少し荒れているので壱岐のポイントまでは2時間弱。ポイントに着くまで寝よう

と思ったが船室がいっぱいの為、今日が遠征デビューというM村さんとトモに座ってお話

をさせて貰った。彼はまだかなり若く大学時代には自分の地元にいた事があり、地元の釣

り場の話や今日の釣りについて、他にも色んな話をした。遠征先での出会いも釣りの楽し

みの一つだ。M村さん楽しかったです。次はとんでもないヤツ釣りましょうね。

10時頃ポイントに到着しジギング開始。急いでフレイムを沈めて行く。着底後素早くベ

イルをかえしてしゃくり始める。いつもより竿がワンランク硬いので少しリズムが取りず

らい。潮の感じも慣れていないせいで良くは分からないが、あまり効いていない様だ。

最初の流しは20分程続いただろうか船中何も無く一流し目が終わった。

それから同じポイントを切り口を変えて何度も流しなおしたが誰のロッドも曲がっていな

い。次のポイントへ小移動する途中に聞いてみたが誰もアタリが無かったみたいだ。

 

小移動を繰り返すが大きなポイント変えはせずに皆一心不乱にジグをシャクッていたのだ

が何も起こらないので、段々とダレ始める人も出てきた。今日は潮が小さい。今もあまり

潮が動いていない様だが、もしかすると一日中このまま動かない可能性も高い。納竿後に

聞いた所によるとほぼ一日中0.何ノットって感じだった様だ。釣りをしている時に聞い

ていたらモチベーションが下がってしまう所だった。聞かなくて良かった。

その後トモに乗っている常連さん2人がジギングで2本づつヒラマサを釣った。最大魚が

80センチ中盤程、これが壱岐のアベレージって事だがこの海域の潜在能力は計り知れな

い。壱岐でも七里でも時々何もさせて貰えずに一気に走られてお終いっていうモンスター

が掛かる、ともう一人ミヨシで釣りをしている常連さんが言っていた。

釣った二人のジギングを観察していると、一人は電動リールでのサイバージギング。電動

リールを使ってはいるが適度に糸ふけを出し”間”を作っている様だ。もう一人は年配の

方だが恐ろしく均一で規則正しいシャクリを延々続けている。お話も少し伺ってみたのだ

が、どうやらこの規則正しいリズムの中に一瞬違うタイミングを織り交ぜているようだ。

流石常連さん、この場所での”固い釣り”を心得ているようだ。

2人を観察する事によってヒントは貰えたので自分の今日のタックルとフレイムの組み合

わせに置き換える所謂”翻訳作業”に取り掛かった。それで一匹釣るか最低アタリだけで

もあれば、また違った”自分の答え”が見つかる筈だ。

一日一日天候が目まぐるしく変わって行く気難しい春。どうやら今日は潮の動きにも過度

の期待は出来ない。こんな日は自分のシャクリで道を切り開いていく他は”マグレ”を待

つしかない。

 

3っつに折れたロッドがホルダーの中でカタカタと音を立てて揺れていた。

 

 


第二回「春、かよ!」第四章「意外な成果・スタート」

大きく移動し、島を右舷に見るポイントに着いた。この場所はキャスティングがメインの

ポイントだそうだが、今回はフレイムの耐久テストが本来の目的なので自分はジギングを

続ける事にする。鳥も飛んでいないし、両方やってどっち着かずになってしまう可能性も

ある。ジギングで何本か釣れていれば話は別だし、自分がジギングをすることによって他

の同船者に迷惑が掛かる場合は例外なのだが、大丈夫な感じだったのであえてそちらの方

を選択した。

ミヨシの常連さんとM村さんも同じ事を考えた様で最初は3人が左舷でジギングをしあと

の人は右舷でキャスティングをしていたが何事も起こらないので、何人かはジギング左舷

組に合流し何人かは船室で寝始めた。

シャクリ続けていると何となく「これならフレイムで釣れるぞ」と思える感触がロッドに

伝わって来た。このタックルバランスに慣れてきたのか一瞬潮が動いたのか、その刹那に

”フッ”とジグの重みが無くなった。”ゼロフィール”だ。ラインスラックを高速回収し

”ジャッッ”と合わせを入れたが、一瞬フックが口の端っこに引っ掛かった感触が伝わっ

たのみで乗せきる事は出来なかった。

このポイントではその後寝ている人を除いて全員がジギングをやり始めてしまったので、

それじゃ意味が無いと思ったかどうか分からないが船長はポイントを見切ってまた移動し

た。

 

午後1時を過ぎ2時を過ぎ、今はもう3時を回っている。今回の目的はフレイムの耐久テ

ストと勿論フレイムによるヒラマサの捕獲であったが、どうやらかなり分が悪い。最低限

耐久テストのデーターを取らなければならないので、それでも暫くはフレイムをシャクリ

続けた。

4時を過ぎ、多分ここが最後のポイントでもう大きな移動をする時間は無いだろう。かな

りの数の鳥が飛んでいるが今日は今の所無数とも言える鳥が低空を飛んでいる状況でも、

ヒラマサが下から突き上げてくるのを見ることは無かった。ただしっかりと確認出来ない

とは言え鰯らしきベイトは沢山いるようだ。

多分このままジギングを続けていても釣れはしないだろう。ロッドから伝わる潮の感じも

釣れる感触には程遠い。同じ低確率でもキャスティングの方がホンの少し可能性がある様

に感じたので、自分はここで意を決した。

テスターモード解除!

黒鮪用に購入した低弾性主体のブランクスを持ったGT用のロッドをおもむろに手に取り

、ルアーをマッドフラミンゴから気難しい鰯ナブラで実績の高いドラゴンスケルトンをビ

ッグゲーム用に改良した新作プラグのブルーバックドラゴンに付け替えてキャストした。

こいつを投げるのはテスト以来だが、相変わらず”ロスト級”に飛んで行く。2サイズ大

きい同船者のルアーのまた2割増し位は飛んでいる。12〜13センチクラスのルアーを

130ポンドリーダーで使用してこれ程飛距離を出せるモノは他に無い。っなんて悦に入

っていると常連さんが「それ凄い飛びますねぇ」なんて言ってくれるもんだから思わず調

子に乗って色々と話していたらイキナリ”ゴッツン”とバイトがあって元気いっぱいの小

型ヒラマサが揚って来た。投げたルアーに自信は持っているものの皆がキャストして殆ど

バイトも無かったので、状況的にそれ程釣れる気はしていなかった。だから少しビックリ

して「いやぁ、お話して横向いてたから釣れたんですよ」なんて言ってみたが、そうでは

なかった事がこの後直ぐ分かるのである。

もしかしてもう一本つれるかも、と思ってフルキャストしリトリーブしているとそんなに

頻繁にあるわけではないが、何投かに1回はチェイスやバイトがあった。他の同船者のル

アーはチェイスがたまにあるくらいでマトモなバイトは無い。ミヨシの人もそう言ってい

る。なのにブルーバックドラゴンには何度も追い食いをする様なバイトや競い合って食う

様なバイトが出て、その内何本かは針掛かりした。

明らかに”何か”が違う。この”何か”がなんなのかについては機会を作って他のコンテ

ンツで語らせてもらおうと思っているのだが、控え目に言って少なくともこの状況下にお

いてはブルーバックドラゴンに特別な力が備わっていると言って良さそうだ。

一度かなり大型のヒラマサがもんどり打って襲い掛かってきたが針掛かりはしなかった。

船長も「今のはデカかったねぇー」と言っていたが、それが釣れれば自分の言葉にもっと

説得力があったのにと思うと口惜しい。結局ブルーバックドラゴンを1時間足らずキャス

トしてヒラマサ4本。この日一日を通して他の同船者にキャスティングによる釣果は無か

った。

しかし思い描いたサイズには、あまりにも遠かった‥‥。

 

帰港途中もミヨシの常連さんとM村さんと3人でトモに座って色々話をした。もう辺りは

薄い暗闇に包まれ始めていた。途中船長室にも顔を出して、あるタイプのルアーを製作し

てくれと頼まれた。丁度その種のルアーが現在開発中で、帰ったら直ぐにプロトタイプを

テストする事になっている。

今日は残念だったけど大きな意味のある釣果は出せた。満足は出来ないけど久しぶりに船

長の顔も見れたし気持ちの良い同船者にも恵まれた。

疲れて眠いけど、でも嬉しい。

港に入ると観覧車のイルミネーションが見えた。

遊園地かな?綺麗だなぁ。

船長・常連さん・M村さん・同船者の皆さん、どうもありがとうございました。

5月にまた戻って来ます。

今度は絶対にモンスターヒラマサと黒鮪を釣るぞ!

 

ホテルに戻り飯を食って風呂に入って寝て起きて駅に向かい地下鉄で空港に向って飛行機

に乗って空港に到着し駐車場に戻って荷物を積んで車に乗った。

こうやって目が回るほどのスピードで急速に加速度的に日常へと戻って行く。

遠征とは日常からの脱出でもある。

 

 


ハンドルを握る自分の手は家の方向ではなく、新しいルアーを実験するテスト場を目指し

ていた。

これが自分のある日曜日の日常。

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