Expedision(account of voyage)

 

 

 


第三回「not in japan」第一章「テンション」

’09年4月27日夜、ネイチャーボーイズのブラックのロッドケースにキャスティング

ロッド2本とジギングロッド2本を竿袋ごとねじ込んで留め金を留めベルトでしっかりと

押さえ込む。

最近、遠征釣行では直前までなかなかモチベーションが上がらない。

「釣らなきゃ」っていうプレッシャーに慣れが入ってきて、遠征でも特にいつもと変わら

ず「一瞬でもチャンスがあれば必ずものにする」という決心が当たり前になって特別では

なくなってきている。

余計な力みがなくなったし、フワフワ落ち着かない気持ちのままで釣行が終わってしまう

事もなくなったのでそれはそれで良いのだが、逆に直前になるまで程よい緊張感を保つの

が難しくなってイケない。

「そんなん関係なく楽しみゃいいじゃん」と思われるかも知れないがそれはそれ、何かに

追い詰められて「よっしゃ、やらなきゃ」と思う感覚もまた自分にとっては楽しみ方の一

つなのだ。

28日に5月1日着指定で姪浜のビジネスホテルいずみ屋にロッドケースを送り(黒猫ヤ

マトで2000円)その夜残りの荷物を用意する。

29日、会社帰りに駅構内の書店に寄りソフトカバーの小説を3冊買う。遠征の移動中は

寝るか寝れなければ本を読むのが一番だ。

”フェルマーの最終定理/サイモン・シン著青木薫訳””スプートニクの恋人/村上春樹

著”と”海外ブラックロード最狂バックパッカー版/嵐よういち著”

”スプートニク〜”は出発の前の日までに読んでしまった。

日常に慣らされ過ぎてもうすぐ遠征だという実感が沸かない。

30日夜にトモくん(相棒)宅でミーティングをし、今回遠征用のティラノスドライブT

Nと合わせてTNSとコヨーテの補充分も受け取った。

「何かテンション上がらんよ」と頼りない事をトモくんに打ち明けたが、帰宅途中の一人

の車中で急にムクムクとテンションが上がってきた。

来た来たー、この感覚。気が充実して心地良い。

後はこの気合がオーバーフローして眠れなくなるのに気をつけなければ。

帰宅後に全ての荷物をチェックして詰め込み、カバンの上に乗っかって体重をかけて蓋を

閉じ”バッチン”と留め金を留めデッキシューズと一緒に車に乗っけた。

その夜は良く眠れた。

 

 

17:30仕事で本社に送るメールの容量が大きくて終業時間が来てもまだ送信が終わら

ずイライラしながらパソコンの画面とニラメッコして送信終了を待つ。

送信が終了して机の上を片付けてブリーフケースに手帳と携帯を放り込んで上着を着てエ

レベーターに急ぐ。17:45

いつもは20:30中部国際空港発福岡空港行きANA239便に乗るのだが、今回どう

してもキャンセルが出ずに早目にあきらめて一本前の19:10発の便に予約を取ってい

たのであまり時間の余裕が無い。

急いでコインパーキングに向かい車で出口に向うが5000円と1万円札が使えない。料

金は2000円だ。

車を駐車スペースに戻し一番近いコンビニでタバコとブルーベリージュースを買ってダッ

シュで戻り再び車を出した。

間に合わないとものスッゲー洒落にならん。

18:30いつものアットエルカに車を預けて金を支払い送迎の車に荷物と自分を放り込

んで国内線入り口まで急ぐ。

「あっそういえばスタンプカードにスタンプ押して貰うの忘れた」と気が付いたがそんな

事より早く荷物を預けなくっちゃ。

18:45分国内線出発ロビーに到着し、足早に発券機でチケットを受け取って荷物を預け

た。

「あぁ良かった」少し余裕が出来たので喫煙ルームでタバコに火をつけ、根元までしっか

り吸ってから保安チェックに向った。

ロビーに向かうエレベーターの中でもそうだが豚だか猪だかのインフルエンザの報道の影

響でマスクをしている人が多い。

国内線だよ?まぁ可能性がなくはないけど、そんなこと言ったら普段もマスクして生活し

なきゃイカンね。

狂牛病の時みたいに少し報道が無くなれば直ぐに忘れちゃうクセに。少し意地が悪いが、

口の横がパカパカに開いてしまっている普通のマスクを子供や嫁さんにまでさせて満足

そうな顔をしている自分と同年代と思しきお父さんの横顔を見ていると「そんなに能天

気じゃ家族は守れんぞ」と思う。

思ったよりは混雑が無いが当然多少は列に並ばなければならない。

「こんな事でイライラしないぞ」と決めてチェックを済ませ8番搭乗口(10番だっけ

?忘れた)の近くの椅子に腰掛ける。

出発は5分10分遅れるようだ。

暇なので斜め右前にこちら向きに座った色白の綺麗な子を「おぉ結構可愛いなぁ」とち

ら見しながら時間を潰した。

どこに行っても綺麗な女の子を見ていればかなり時間を潰せる。途中で我慢出来なくな

るとイカンので程々にしておかないと‥‥。

5分ほど遅れて機は飛び立ち、自分も空中に浮いていく。

暫く”フェルマーの最終定理”を読んで30分ほど寝てからスチュワーデスさん(フラ

イトアテンダントでしたっけ?略してなんて言うんだっけ?ド忘れた)に温かいスープ

をお願いして薄目になりながら「あぁー」と紙コップに入ったそのスープを湯船に浸か

る様に堪能して、暫くすると機は福岡に到着した。

自分の足も九州の地面の数メートル上に着地した。

 

 

今回はいつも迎えに来てくれるK田くんが今日から彼女と沖縄旅行らしく(エロいぞK

田くん)初めて空港から地下鉄で姪浜に向かう事になる。

一番ターミナルに到着したので地下鉄の入り口まではちょっと距離がある。

20キロの荷物が入ったバッグと着替えの入ったバッグを引きずりながら途中野外の喫

煙スペースで一服してからエスカレーターで地下へと飲み込まれて行った。

姪浜まで320円の切符を買う。福岡空港から12駅先だ。結構時間が掛かりそうだが

地下鉄一本で移動できるのは遠征先のアクセスとしては有り難い。

2駅乗って博多で席が空き、まわりにお年寄りも居なかったのでドッカと腰掛け回りを

見渡した。

ちょっとダサ目の(失礼)カップルが目の前の席に一組、こちら側左には吊革につかま

ったくたびれかけの会社員が(自分もくたびれかけの会社員だが)2組。後から品の良

い背筋のシャンとしたお婆さん(これまた失礼)が乗って来たが幾つか席は空いている

ので自分はそのまま。

今何駅目だろう。慣れない土地に来てマンウォッチングに没頭し過ぎると失敗の元だ。

海外の一人旅でもそれで何度か痛い目に合っている(大した事じゃないけど)。

次が姪浜だ。

姪浜の手前で地下鉄は地上に出る。

「ぷっはぁー」と息継ぎを我慢していた列車くんが一気に息を吸い込む。

自分も「ぷっふー」と息をついて地下鉄を降りた。

反対側の東口は良いのだけど、自分が降りる西口は段差があってしかもエスカレーター

の類が無いのでどうしてもクソ重い荷物を持ち上げなければいけない。

「疲れてんのに嫌だなぁ」と思い念の為に駅員さんに「エスカレーター無いですよねー

?」と聞くが申し訳なさそうにされただけでヤッパリ無い。わかってるけどね。

いずみ屋まで2・300メーター荷物を引きずって歩いてやっと到着。

一泊5500円。4泊5日の22000円を支払い、届いていたロッドケースと荷物を

部屋に置いて直ぐに目の前にある西鉄ストアに行った。

前回の遠征で主婦的な楽しみを味わって病み付きになった。

閉店間際の安売り狙いだ。

折角来たのに肝心の弁当がもう無い。少し時間が遅すぎたか。

明日の船内食用に半額で105円のレーズンパンを2袋に小倉デニッシュ100円を2

袋、聞いた事の無い銘柄のお茶2リットル168円と午後の紅茶ストレート1.5リッ

トル198円を買ってなんと1000円でお釣りが帰って来た。

主婦って結構楽しいかも。

その足で今度は夕食用の弁当を買いにコンビニに行く途中Sくんから電話があった。

前回の遠征の時も電話をくれた。単独釣行の時はいつもの釣友の電話は凄く嬉しいもの

だ。

 

 

Sくんとの電話が終わってナポリタンと納豆巻きと助六を買って帰り、ストアで買った

お茶でそれを流し込みながらワウワウで映画を見た。

どこかから赤ん坊の泣き声が聞こえる。カンに触る喉の奥から出るような可愛げのない

泣き声だ。

話の筋は解らないがカッコ良い車をぶっ飛ばすイカした映画だった。

ACコブラ・マスタング・マイバッハ・GT40・エンツォ・ムルシェラルゴ・SLR

・マセラティー‥‥数え切れないくらいカッコ良い車がワンサカ出てきて、おまけにち

っちゃくてイカした”お尻”もいっぱい出てきて最高にスリリングでセクシー。

夢中になって見ていて知らない内に10本入りの納豆巻きが無くなってしまった。

明日もあるし少々眠気にも襲われたが、映画の題名が知りたくてとうとう最後まで見て

しまった。

レッドライン

果たしてもう一度見るかどうかは怪しいもんだが、理屈抜きでカッコ良い映画だった。

0:00ユニットバスに無理やりお湯をはって風呂に入る。

自宅では風呂嫌いだが単独遠征では疲れを取って明日に備えたり、時間があれば何度も

風呂に入る。風呂の入り貯めだ。

風呂から出るとワウワウでレアルマドリードを紹介する番組がやっていた。

ジョン・カビラが「一生懸命やったからいいや、ではレアルでは決して通用しない」と

言っていた。

自分の釣りもそうでありたい。いつも結果を出して、その上で楽しめたら最高だ。

それが終わると”なっちゃん”の宣伝の子が歌っていた。

目がおっきくて可愛い。線が細い感じも好みだ。

5:30に携帯のアラームをセットする。

6:30に船長が迎えに来てくれて7:00に出船の予定だ。

午前1:30。就寝。

まぶたの裏側を空港に居た色白の美人となっちゃんとロッドがブチ曲がったイメージと

レアルマドリードとムルシェラルゴとGT40とジョン・カビラが走り過ぎて行き、壁

の向こうへと時速300キロで消えて行った。

そしてシーツの上で深い深い眠りについた。

 

 


第三回「not in japan」第二章「洗礼」

 5月2日午前5:30。携帯のアラームで一発起床。曲はサンダーストーム。

直ぐにユニットバスに栓をしてお湯の蛇口を8水の蛇口を2でひねって湯が溜まるまでの

間に昨日準備しておいた着替えとタックルをチェックしてドアの前まで持って行き、テレ

ビの電源を入れてもう一度ベットに飛び乗った。

バウンッ

少しうとうとして「あっ、イカン」と思い出して風呂に行くと案の定湯が湯船からあふれ

る寸前だった。

そーっと湯が溢れない様にゆっくりと身を沈めて行く。暖かくて気持ち良く目が覚めて行

く感覚をジックリと味わう。

風呂から出てバスタオルで体の水分を拭い、素っ裸のままレーズンパンをかじる。

5個入り一袋を全部食べてお茶でうがいをしてノースフェイスのレインウェアを着て戦闘

準備完了。ロッドを廊下に出す。この時ドアを荷物で押さえておかないとオートロックで

部屋から閉め出される事になってしまう。自分は用心して更にキーを持ったままこの作業

を行う。釣りは朝早い事が多いので、一度閉め出されてしまうとまだ寝ているフロントを

起こして迷惑をかけたり、起きなきゃ起きないで荷物が中に残っていれば釣りに行けなく

なってしまう。

6:20通りに出て船長を待つ。

6:30少し過ぎて船長が奥さんを助手席に乗せてやって来た。

「妻木ちゃん久しぶり」「船長久しぶり」

挨拶もそこそこに荷物を積み込んで荷台に乗り込む。船長の仕事用の愛車は軽トラなので

3人目の乗組員は荷台の特別席が指定だ。小さな頃の農作業の手伝いを思い出して何だか

笑えてくる。が、5月とは言っても朝はいささか寒い。

 

 

 

港に着くと3月にも同船させて頂いた常連さん2人がいて何だか嬉しくなった。一人は自

分が勝手に”お父さん”と命名して、船長からヒラタのオヤジと呼ばれている方だ。多分

平田さんというお名前だろう。

7:00出船。

東野船長は出船直前にその日の行き先を決める事が多いが、この日もエンジンをかけてか

ら行き先が壱岐に決まった。

天気は上々だ。

前回の遠征は2日間の予定で1日が天候不順で流れた。それを思えば今回は3日間とも何

とか釣りが出来そうな予報だ。ラッキーチャチャチャッ、ウッ。

船室が空いていないのでトモの波が避けられる場所に座り、船が1時間半ほど走ってから

スロットルが弱まった。

「着いた!」

島が程近く見えるポイントで先ずは船内の乗客が二手に別れてキャスティング・ジギング

両方でスタート。

最初の2流しくらいは全く反応が無かったが、3流し目くらいにお父さんがジギングで小

型のヒラマサをキャッチしたのを口開けに船中ジギング組が数本をキャッチ。しかしサイ

ズが出ない。

その後もジギングでポツポツ追加があったがサイズが伸びない。自分はと言えばジギング

に転向するもまともなアタリさえも出せていない。

前回の遠征で何となくこちら独特のシャクリを掴んでいたが、2ヶ月も間が空いていて未

だシックリ来ず苦戦を強いられる。

そのまま時間が過ぎて行き、午後になってしまった。

午後1時を過ぎてから少しづつ状況が好転し始めサイズも少し上がってきたが、自分がジ

ギングをすればキャスティングでパタパタと釣れ、キャスティングをすればジギングで連

発した。完全に裏にはまってしまっている。

最初はそこまで凹んではいなかったが、午後2時過ぎに自分がジギング中に10キロクラ

ス2本を含めた良型が何本かキャスティングでキャッチされ、これで完全にペースが乱れ

てしまった。

近年青物のキャスティングゲームが各地で流行り出してから、特に乗合船ではジギング・

キャスティングのちゃんぽん状態が発生し、どっち付かずのスタイルでは結果を出すのが

難しくなっている。

自分は”鼻”を利かせタイミング良く両方をやり切る、そんな力を意識して養う事を実釣

での目標の一つに掲げていたのだが…まだまだその感覚は弱くて頼りのないものだ。そし

てそのことが露呈した形となってしまった。

一度全て気持ちをリセットする。「良し、リセット完了」

バス時代にはこんな時に気持ちをリセット出来ずに一日を棒に振ってしまうことも多かっ

たが、エンジェルズエンジンを立ち上げて以降明らかにプレッシャーに強く気持ちの切り

替えが早くなっているのを自分でも感じる。

3日間の遠征であっても1日1日を「今日しかないから頑張ろう」と強く思ってやり切り

たい。

 

 

ミヨシが空いたので入らせてもらって暫くはキャスティングに専念する事に決めた。

午後2時半頃、ティラノスドライブTNに初チェイスがあった。それもこの日の最大サイ

ズと同等のメータークラス。

このヒラマサは足元までチェイスしてこちらに気がついたのか、その瞬間にサッとどこか

に沈んで行ってしまった。

しかしこれにヒント得た。先程からキャスティングでキャッチに繋がったパターンを見て

いると、ロングジャークとは言えそのストロークが短い方がよりバイト率キャッチ率が高

い様だ。実際このチェイスは自分の推察の信憑性を確かめる為にショートストロークのロ

ングジャークを試していた最中に起こった。

今まで気がつかなかったが、チェイスが何回もあってもパターンから外れていた為にこち

らが気付く前にターンしてしまっていたのかも知れない。

水深50〜60メートルからの駆け上がりのディープ側から風で船を流してトップに近付

いていくスタイルで、午後3時頃そいつは姿を現した。

船から15〜20メートルくらいまでジャーク&リトリーブしてきたティラノスドライブ

TNの下に10数匹の中型ヒラマサの姿が見えた。

今こいつらがメインに捕食しているベイトよりルアーがデカイのかチェイスのみでバイト

してこない。

ずーっとチェイスしてきたのか、ティラノスドライブTNにロックオンしている。

こんな時は決して焦らずに同じペースでリトリーブし続けるか、そうでなければ一発激し

くダイブさせるのが良いが、今の今まで何も無かったのでスピーディーな対処は糸絡み等

のトラブルでチャンスを逃すだけだと判断し前者を選択、次のロングジャークで一段下の

棚にポジショニングしていた余裕でメーターオーバーのデカマサがワープのようなスピー

ドでバイトした。

ついさっきまでメータークラスを何本も見ているから目測に間違いは無いだろうし、今日

船に揚げられたどのヒラマサよりも確実にデカイ。

船からの距離およそ7・8メーター。

船長がすかさず「でかいぞ!妻木ちゃん鬼フッキング鬼フッキング!」と声を掛けてくれ

たが、アワセがシッカリと決まらず即フックアウト。

「んぁあああー!」と顔を歪めて悔しがる格好になりかかった途端信じられないものが視

界に飛び込んできた。フックアウトした余裕でメーターオーバーデカマサのその又一段下

にポジショニングしていたにもかかわらず、それでも3回りほどデカいモンスターデカマ

サが事もあろうにティラノスドライブTNにバックリ食いついてしまったのだ。

”ドックン。ピタッ”心臓が止まった気がした。

船長・常連さんや他の同船者の方達も、そして自分も一瞬凍りついた。

23センチもあるティラノスドライブTNが小さく見える。

渾身の力を込めてフッキング。「ふんっ、ふんっ、フンヌッッ!」

ST−66の4/0がガッシリと奴の顎を捉えた。

その刹那ミヨシからトモまでそいつは一気にダッシュ!

ドラグは7キロほどはかけていたがお構い無しに突っ走る。

船長が「ドラグ締めろ!」と言い横から手を出してドラグノブを回す。

「えぇ!これGTと同じくらい締まってるよ?」

「そうだよ!」

どうやらそうらしい。誰でもいいから最初に教えといてくれれば良いのに。

胴の間のホルダーに差してあるロッドを除けて貰い自分もトモに猛ダッシュ。足がもつれ

なくて良かった。

トモから下に突っ込んで行った奴の姿はもう見えない。

体を立て直してバットエンドをギンバルに差し込みロッドを立て完全にファイト体勢に入

る。

「んんんんんんー!」

何とか強烈な走りを止めようとするがお構い無しに走り続ける。

そのまま数秒後、そいつはもう一段スピードを上げ命がけのダッシュを敢行。

最後はロッドがトモの手摺を叩いた途端に痛恨のラインブレイク‥‥。

「なんじゃ、ありゃー」肩で息をしながら呆然とする。

水深8メーター。あのサイズならフルドラグは仕方の無い判断だ。あとは運を天に任せて

ラインをフリーにするくらいしかないが、如何せん今の自分にはその技術も発想する余裕

も無い。

結局このラインブレイクでギリギリに間に合わせて貰った虎の子のたった1個のティラノ

スドライブTNをロストしてしまった。

船長は「余裕で20キロはあったな」と言い、またある常連さんは「まるで牛みたいだっ

た」「S字に曲がっていて大蛇みたいだった」と口々に驚きを表現していた。

全く勝負にならなかった。何もさせて貰えなかった。

遠征初日の今日初めてのバイトが20キロオーバーだなんて、あまりにも…

これが自分に衝撃をもたらす1回目のデカマサの洗礼となった。

だがこの後、九州の海は再び自分に牙を向ける事になるのだが‥‥

第3章「not in japan」に続く。

 


第三回「not in japan」第三章「not in japan」 

今の自分の技量とタックルでもう一度あのクラスのデカマサをかけたら、今度はキャッチ

持ち込めるのだろうか。

自信は無いが、そうそうモンスタークラスが立て続けにかかりもしないだろう。少なくと

も自分にはそこまでのラッキー(アンラッキー?)な経験は今までに無い。

2セット持ち込んだキャスティングタックルの片方がPEの高切れで死に、時間的にノッ

トを作っている時間が微妙になのでもう片方のタックルにティラノスマウスTNをつけて

釣りを再開する。

ラインブレイクは別としてキャスティングではどうしてもライントラブルが付き物なので

こんな時の為に全く同じセッティングを2本持ってきている。

スミス社のWRC80P/35にソルティガ6000GTに6500番のスプール。

ラインはPE5号に130ポンドリーダー。黒鮪ともこのままで戦えるように自分が考え

抜いた選択だ。

コモド遠征の折に右巻き左手フッキングを覚えたので、両腕の負担を出切るだけ均等にす

る為に、自分は本来右投げ左巻きだが右で投げてルアーが空中にある内に持ち手を変えて

右手でサミングして右で巻き左手でフッキングを行う。まだホンの少し反応スピードが遅

れるがフッキングパワーはコモド島でも実証済みだしさっきのモンスターの顎もガッチリ

と捕らえる事が出来たので何の問題も無い。

左投げは今回も少し試してみたが、8名乗船の状態ではまだ少し危ないと判断して右投げ

に専念した。

ティラノスドライブTNで得た情報から自分なりに分析してティラノスマウスTNを選択

したが、よくよく考えると恐らくこのルアーも一発出たら”ドッカーン”とモンスターク

ラスがバイトしてしまう可能性が高いのでは?と感じて少し恐くなって来た。

僅か数分のファイトだったので残りの体力的には問題が無いが、せめて出来れば10キロ

前後の普通のデカマサとのやり取りを数回経験してからルアーを持ち逃げした”あいつ”

とやり取りしたかった。

こちらに来るときは「とりあえず1メーター10キロ越え」を目標にしていたが、九州の

海は自分ではどうすることも出来ないほどゴージャスな贈り物を何の予告もなくイキナリ

叩きつけて来た。

複雑な感情が織り交ざって頭の中を行ったり来たりしていると、ノットからPE側にライ

ンの”よれ”を見つけた。

 

 

 

 

いつだってライントラブルは一発で命取りになってしまうので、常にラインチェックは入

念に神経質に行う。

「モンスタークラスがかかったらファイト出来ない」と判断し残り時間の事も考えてキャ

スティングは断念した。

「とりあえず10キロくらいの」と願ってジギングを開始する。

ジグはフレイムだ。

前回の九州遠征で釣りが始まる前にメインロッドであるスミス社のWGJ−S58Mをボ

ッキボキにしてしまい、カタログ落ちしているこのロッドを方々探し回ったのだが見つか

らずに”ヒョッ”と立ち寄った釣具屋で偶然出会ったCBONE社のZEROショートラ

イド57Mをその曲げ心地とコスメに惚れ込み衝動買いしてしまった。これが軽くて適度

な張りがありグリップも細めでシャクリ心地も抜群だ。

午前中はシックリ来なかったジャークも段々と体が3月の記憶を取り戻して気持ちよく決

まっていく。

 

 

 

「何となく感触が良くなって来たな」

と思いながらフレイムを水深60メートルに沈めていく。

着底後即2巻きしてミディアムストロークのワンジャークを入れる。これはいつも自分が

実践しているフレイムの基本動作だが、ニュアンス的にはいつもの一発ワンジャークより

少しぬるめに行う。何となくだが、こちらではその方が良さそうな気がする。基本動作が

ある程度決まっていれば”翻訳作業”は比較的スムーズに行えるものだ。

そこから「1・2・3」シャクリ目で何の前触れもなく

”ズッッドンッ”

と一気にロッドがバットまで入り込み、持ち直してアワセを数度入れてからリフトに移行

するもカッティンカッチンで動かない。

何度も何度もリフトしようと試みるのだが全く動きゃしない。

一瞬「もしかしたら高い根でもあって根掛かりしたのかな?」と思った矢先にグングング

ングンと真下に走り出した。

「ぅおおおおぉー、なんだ?行くいく行く行くー!」

ヒラマサのポイントなので当然ボトムはザリザリガリンガリンの根が広がっている。

食わせたのはボトムからせいぜい5メートルの位置だ。

ホンの少しでも調子付かせれば一瞬で根に行かれてジ・エンドだ。

「止まれ止まれぇー!」絶対に根に行かせまいとほぼフルドラグで応戦する。

「ぬぬぬんぬーー!」

数秒後、涙のラインブレイク本日2度目。

全く何もさせて貰えなかった‥‥

 

 

 

 

 

「なんでバケモンばっかり食ってくんだよ!」

と自分以外に向けても仕方の無い怒りと情けない思いが泣きたい気持ちにさせるが頑張っ

て笑った。けどそれは苦笑いになった。

それにいつも「ビッグフィッシュが食ってくる傾向が強いモノを生み出したい」と考え続

けているのは当の自分だ。

でも‥だって‥だってさぁ‥

「一日に2回もモンスタークラスが食ってくるなんて事‥‥あったね‥‥」

これが自分にとって2回目のデカマサの手痛い洗礼となった。

 

 

結局この日この後キャスティングでもジギングでも全く反応がなくなり、程なくして納竿

沖上がりとなった。

自分はこの日キャスティング1回とジギング1回の計2回のみのバイト。そして2回とも

何も出来ずにラインブレイク。

あの時自分に他の対処が出来ただろうか?いや、今の自分にその技術は無い。それどころ

かもっとずっと上手い人だってキャッチできたかどうか怪しい。船長も「どうやったら捕

れるかいねぇー」って言ってた。

けど自分はいつか、いや次からはあのクラスが掛かっても100パーセント捕れる技術を

身につけたい。いやきっとそこまで上手くなってみせる。

 

 

 

 

 

自分に2度も手に余るプレゼントを寄こした九州の海は何も言わずに釣り人達を乗せた船

を港へと運んで行く。

 

 

「九州の海を国内の海だと思うのは、もう止める」

揺れる船内で泥の様な疲れとやるせなさを全身にまとった一人の釣り人はボンヤリとそう

考えていた。

 


 第三回「not in japan」第四章「ノンアルコール居酒屋〜普通のヒラマサ」

船を降りると船長が「妻木ちゃん飯どうするん?」と声をかけてくれた。

「一緒行こか、でも俺釣りの前の日は飲まんけど良い?」

「そういうこと言うか、ふーん」「嘘ウソ、別にええよ」

本当は飲みたくて仕方ないし、飲めない訳でもないのに酒を断るのは礼儀に反しているの

は分かっちゃいるが、今まで(会社の接待は仕事だから別として)それだけは自分に言い

聞かせて頑なに守ってきた。”釣り”だけはいつもベストな状態で挑みたいし、そういう

気持ちをいつも忘れたくは無い。

酒飲みとしては異例の船長の優しさに感謝。

って事で一度ホテルに帰ってから船長と奥さんとお父さんと自分の四人で船長の知り合い

の居酒屋に集合する事になった。

お父さんに車でホテルに送って貰い、潮まみれになった体を湯につける。日焼けした顔が

真っ赤っかになってヒリヒリする。

風呂を早目に切り上げて西鉄ストアに行き明日の朝飯と船内食を買いに行く。「あぁ良か

った、嬉しい♪」弁当は半額になっていて未だ残っていた。

弁当をホテルの部屋において直ぐに姪浜タクシーを呼び、運転手さんに船長のメモを読ん

で伝える「下山門のろばた波津城」

 

 

 

 

 

店に着くとお父さんがすでに席に座っていてキョロキョロしている自分を「おいおい」と

呼び止めた。10分ほどして船長と奥さんがやって来て3人は生ビールで自分はウーロン

ハイのハイ抜きで乾杯。3人とも自分の粗相を許してくれた。

何度も今日ブッ千切られたデカマサの話になりその度に凹んだが、魚は美味いし船長の友

人の店主も切符の良い方で酒を飲んでいなくても気持ちが良かった。

そもそも自分は飲まなくたっていつもテンションは高めだ。

途中船長の後輩の人も家族と店にやって来て焼酎のボトルをご馳走してくれた。

一心地ついてボス・サップか戦闘竜みたいな真っ黒で丸太みたいな腕をしたゴッツイ後輩

の人が帰る時に暫く話していると、自分は猛烈に眠たくなってきた。

「妻木ちゃん、7月はうち泊まりんしゃい」

「え、いいの?」

「良いに決まっとろーも」

おぉ嬉しい、7月の九州遠征は2日目から壱岐に泊まることになっているが、初日の宿は

ありがたくお世話になろうっと。

じゃあそろそろって事になって帰ろうとしたら、4人とも店の方のハイエースでそれぞれ

送って貰える事になった。めっちゃ嬉しい。

 

 

 

その夜は飲んでもいないのに良い気分になって、ノットを作ってタックルを支度し暫くワ

ウワウを見てから飽きてきたので有料チャンネルで”ムフフ”なやつを見ようとしたが小

銭が足りなくって面倒臭いのでもう一度風呂に入ってから寝ることにした。

明日の出船は4:00。3:30にはお父さんが迎えに来てくれる事になっている。

もう午前1:00を過ぎた。

寝なくっちゃ、寝なくっちゃ、と思いながら体とマブタはゆっくりと重くなり固めのベッ

トにズッシリと沈んでいった。

今日掛けたモンスターが頭をよぎりかけたが、奴はルアーを咥えたまま「あっはっはー」

とアニマル浜口の様な癇に障る笑い声を立てながらどこかに行ってしまった。

Zzzzz。

 

 

 

3:30きっかりにホテルの外に出るともうお父さんが来ていた。むむっ、この人は時間

厳守の人だな。

「おはよう!すんません、お願いします」

「ん、よかとよ」

お父さんはあまり余計な事を言わない、どちらかと言えば無口な人だ。酒の時と最初の一

本を釣った時はニコニコしていて、自分はこんなボクトツな人も好きだ。

 

 

 

 

なぜ今日の出船が4:00かと言うと、船長が夕方獣神ライガーの20周年パーティーに

行かなければならないからだ。んー、いい感じにアバウトで面白いね。そういうのも嫌い

じゃない。獣神ライガー(本名○○さん)は海楽隊のお客さんの様だ。この場合獣神ライ

ガーさん、と読んだ方が良いのだろうか?何だかしっくり来ないし、”さん”を付けてし

まうと”獣神”っぽくない。

初日にも他の人がいたが、今日も海楽隊のメンバーの人がいた。船長は皆に愛されている

ようだ。来るたびに必ず揃いのジャンバーを着た人が何人かはいる。

自分はずーっと東野船長の船が”海楽隊”という名前なのかと思っていたが、それは船の

常連さんの集まりで船名は”華しお丸”(しお の字の他の読み方が分からなくて平仮名

表記になりました。すみません)と言うそうだ。そういえば”海楽隊”の文字と並んでデ

ッカク書いてあったっけ。

今日は海楽隊のメンバーの人と一緒にトモに乗船する。ミヨシ側は5人の団体さんだ。何

故かみんなガタイが良い。

 

 

 

 

 

 

出船。今日も壱岐に向かう。

午前中いっぱいキャスティングをメインに息抜き的にジギングを挟んで釣りを展開するが

両方とも反応は芳しくない。

水深60メートルほどのポイントで「おっ、結構潮の感じが良いぞ」と思い、次の着底後

昨日フレイムをラインブレイクで持っていかれたのと同じく緩めのワンジャークから今度

は大き目のワンピッチで誘っていく。

”パンッ・パンッ・パンッ”と10回ほどシャクった所で前アタリがあって”スコン”と

アタリが出たが乗らず、そのまま同じシャクリで誘うと今度は食い上げのアタリが出た。

”ゼロフィール”って奴だ。ハンドルを高速で巻き重みを感じた所で”バッスン”とアワ

セを入れ立て続けに2度3度追いアワセをくれてやった。

揚がって来たのは中型のヒラマサで、最初の頃はそれでも「すっげー引くなぁ」と思った

が2度のモンスターとのやり取りを経験して自分の感度は上がっているし、もうこの程度

では何とも思わない。でも嬉しいけど。

それから暫く何もなく、「パターンも変わったかな?」と思ったのでワンピッチの間隔を

先程よりショートに変更して攻めていると、今度は何の前触れもなく”ゴンッ”とアタリ

が出て一気に突っ込む。

対化け物用のドラグ設定を少しだけ引き出して揚がって来たのは7キロのコロンコロンに

太ったヒラマサだった。

このくらいなら冷や冷やせずにやり取りを余裕を持って楽しめるお手軽&まあまあ納得サ

イズだ。多分10キロ位までならそこそこ心配せずにやり取り出来る自信はついた。

けど、モンスターは‥‥いつでもその場限りの”一発勝負”だ。

その為には”勝負勘”をもっと養わなければ。

 

 

 

 

 

初日より明らかに反応が鈍くなったので場所を七里が瀬に移動しようと船が走り始めたが

他船からの「七里も全く反応なし」の情報でUターン。

結局この日は船中小型のヒラマサがポツポツ揚がったのみで良型はバイトも無いまま納竿

となった。

港に戻って少し仲良くなった同船者の方に”ブツ持ち”の写真を撮って貰い、「船長今日

もホテル送ってってね」と言うと「わしここからタクシーで会場行くけん、俺の車乗って

行きぃ」「えぇー?」ということで船長の愛車”カウンタック”という名の軽トラックに

荷物を積みロッドを荷台にロープで縛ってオートマチック660CCのスーパーカーに乗

ってホテルに帰った。

船長は獣神ライガーの所に行った。

自分は案の定道に迷い、10分で帰れるホテルに30分以上かけて帰った。

ホテルの人に駐車場を借りて今日釣った7キロのヒラマサをいつものすし屋”山楽すし店

”にクール宅急便で送る為伝票に記入した。

少し申し訳ない気もしたが、船長が泊めてくれるのならば、とありがたく7月の予約は取

り消しにした。

クール宅急便の方はちょっと迷ったが、「デカイ魚捌けりゃ嬉しいから、着払いで構わん

から送れ!」と大将が言ってくれていた事を思い出し、今回は甘えさせて貰う事にした。

ケース込みで2300円くらい。

山楽すし店の大将・お上さん・そうちゃん・せっちゃんいつもありがとうございます。

 

 

 

 

 

 

 

明日は8:00出船。ゆっくり寝られる。

西鉄ストアに行って2度風呂には行って弁当を食い、ボーっとワウワウを見る。

23:00過ぎ。もうそろそろ寝なきゃ、と思ってからもノラリクラリタバコを吸ったり

ジュースを飲んだりベットでゴロゴロ転がったりしながら無為に時間を過ごす。

もう明日のタックルはセットした。

リラックスタイム。

00:00頃就寝。

深い深い暗闇の広大なプールにタップリの水を浸し、その一番底にベットがあった。

”コポコポッ、コポコポッ”って自分の寝息が気泡になって何百メートル上にあるのか解

らない水面へと登って行く。

少しずつ水圧から開放されながら寝息の泡は大きくなって、段々と速度を速めながら登っ

て行く。

一番最初の泡が水面まで達して”パチンッ”と弾けたと同時にマブタがゆっくりと、それ

でもキツく閉じられた。

夢は見なかった。

 


 第三回「not in japan」第五章「鰤の価値」

 6:30起床。

タップリと寝たので気分はスッキリーネのカンターレで、今日も朝飯は安売りのレーズン

パンでマンジャーレだ。釣りの時はアモーレは無しで。

アモーレ無しのカンターレ・マンジャーレだ。

イタリア行った事ないけど。

起きて直ぐに風呂を溜めたが熱過ぎて少し水でうめて、それでも”チンチン”だったので

最初は足だけでゆっくりゆっくり浸かっていった。

いよいよお眼目はバッチリ。今日が7月九州遠征の最終日だ。

いつもの約束

「一瞬でもチャンスがあれば必ずモノにする」

を今日も実戦しなければ。

初日に手痛い洗礼を浴びはしたが、経験不足は釣り場に通って補っていくしかない。

今日はカウンタックに乗って自分で港まで行く。

少し早いが7:10分に少し離れた駐車場に船長の愛車のカウンタック、別名”660C

Cのオートマチック軽トラ”を取りに行ってホテル前に停め、荷物をドカドカッと積み込

んで港に向かった。

 

 

 

 

 

 

今度は迷わずに真っ直ぐ港に着いて駐車場に車を停めると既に待っていた方が軽トラと自

分の顔を交互に見て不思議そうな顔をしているので

「船長の車だけど船長ではありません。おはようございます。」

と一応説明しておいた。

後で話すとこの人はW邉くんと言い海楽隊は3度目の乗船、地元は同じ愛知県だった。

感じの良い人だったので、移動中も同じ船室に入って談笑し色々釣りの話をした。

前回3月に同船したM村くんも何回かブログ(T’sシグネチャー)に書き込みをしてく

れたし、別に仲間を探しに船に乗っている訳ではないのだけど気持ちの良い釣り好きの人

との出会いはいつでも手放しに楽しくって嬉しい♪

 

 

 

 

 

 

 

眠そうな船長が奥さんの車の助手席に乗って現れた。

「奥さんこないだはありがとうございました。」と挨拶をする。

初日は奥さんも同船したが、今日はそのまま帰る様だ。後から聞くと昨晩相当飲んだらし

く、バリバリの二日酔いだったらしい。あっはっは。

今日も最初の行き先は壱岐。

W邉くんとミヨシ側の船室に入り暫く話をしてから仮眠を取った。

そう言えばこの船室はいつも他の人が入っていて、ノソノソっと準備に時間のかかる自分

は今回初めてここに入れた。

自分は常連さんや他の方に気おくれして今まで入れなかったが、申し合わせて少し詰めれ

ば5人くらいは入れそうだ。

昨晩タップリ6時間以上寝たが、快適な船室とエンジン音と心地良い揺れに身を任せてZ

ZZzzzzz。

壱岐に着いた。

3日間見てきた風景にもやっと目が馴染んできた。

午前中は小型ヒラマサがポツポツ揚がるもパッとしない。

今日のファーストヒットもジギングをするお父さんが揚げた。大抵は口開けはお父さんの

一本から始まる。

3月もお父さんともう一人の常連さんのシャクリを必死で観察して、今回やっとそれを自

分なりに”翻訳”する作業が身を結んで結果を出せる様になった。

ここでの定番ジャークはミディアムテンポのワンピッチワンジャークに時折”タイミング

ズラシ”を織り交ぜるやり方で、もう一人の方はそれをメインに色々なジャークを試して

いたがお父さんは一貫してこのシャクリをし続けて、毎回安定した釣果を得ている。

自分は使用ジグが”フレイム”なので”タイミングズラシ”は入れずにピッチの速さだけ

をその時の感触に合わせて微妙に時に大幅に変化させて行く。

”フレイム”はちょっとしたキッカケで自らが微妙に・劇的に”タイミング外し”を演じ

てくれるので、その作業はルアーの側に任せてしまう。

あくまでもイメージなのだが、スイッチが入りきって馬鹿になっている時は別としてこの

”ルアーの側で勝手に”作り出すイレギュラーさが効くし魚がデカければデカイほど”意

図的に作り出した”間”よりもこの”勝手に出来た間”に反応する傾向が強いと自分は思

っている。

そうは言ったって釣れない時は全く釣れないもので、初日・二日目と今日、明らかに尻下

がりに状況は悪化の一途を辿っている。

船長もそれを感じたのか、ポイントを大幅に変更する事を船内マイクで告げ船首を七里の

方角に向けた。

今度は途中Uターンせずに七里に向かった。

さて、この現状を打開する事は出来るのか?

 

 

 

七里は壱岐に比べて全体的に水深が深い。

壱岐は70メートルマックスくらいで、キャスティングポイントは場所によってはそこか

ら水深10以下まで駆け上がる。

七里は90〜100メーターが平均水深のようで、当然深くなればなる程シャクルのはシ

ンドくなるし、底を取れる回数も減ってしまう。

特に自分は今の所ほぼ真横に流すような極端な”ドテラ流し”をそれ程得意としていない

しフレイムはどちらかと言うと潮に頼らずに自発的なアクションをするジグなので、この

釣りには別のプロトタイプジグ”スパーク”の改良と自分の経験値アップが不可欠だと感

じている。

とは言っても、特にジグの場合テストはいつも実戦でしか出来ない。

その場に何とかアジャストし、大きめなワンピッチでシャクリ上げ七里到着後の一発目は

自分が捕った中型ヒラマサだった。

お父さんが「おぉっ、やるねー!」と茶化すので

「俺もたまには釣るよ、お父さん」と応えて見せた。

この1本に気を良くし、始めは不得意だった筈のスタイルで小型のヒラマサをもう1本追

加した。

移動後は食い上げてくる解り難いアタリが多く、微妙な違和感を感じてアワセられるかど

うかが釣果を分けた。

その後も同じパターンが続き、中層をジャークしている時に”モソモソッ”とした違和感

をバッチリと巻きアワセ&追いアワセで仕留め揚がってきたのは、今度はコロッコロブリ

ッブリに太り散らかした鰤だった。

「おぉっ、鰤じゃん!」地元ではそうそう簡単にお目にかかれないデブ鰤に喜んだのは自

分と少し後に同サイズを揚げたW邉くんだけで、船長は「そうだよ、鰤だよ」とだけ言っ

て、他の常連さんは見向きもしなかった。

鰤はヒラマサより引かないから価値が下に見られるのか、10キロ以上ないと「別にっ」

と思うのか、兎に角良い感じに”感じ悪い”反応だ。

船中同じタイミングで何本か追加した後七里でも反応が無くなってしまい、そのまま数時

間休まずしゃくり続けながらもマッタリとした時間をやり過ごした後、船長判断で再度壱

岐に戻る事になった。

船長は壱岐に戻った理由を何も言わないが、自分には船長が「妻木ちゃん今度こそデカマ

サ釣れよ」と考えて移動してくれたのが分かった。

昨日から、いや初日の夜の居酒屋からずっと「今度は捕れよ!」何度となく船長に発破を

かけられ続けていた。

ありがたくも嬉しいプレッシャーの掛けられ方だ。

 

最初はミヨシのデッキ下から。途中からはミヨシに立って撃って撃って撃って撃ちまくっ

た。

投げて投げて投げて投げまくった。

手が痛くても、日焼けした顔がヒリヒリしてもフクラハギの筋肉が痙攣しても。

しかし尻下がりの壱岐はこの日、自分の頑張りに応えてくれる事は無かった。

結局3日間で自分が手にした魚で目立った釣果は7キロのヒラマサと鰤くらいのものか。

後は、人に話せば「釣り人の”逃がした魚”はいつでもデカイ」としか思ってもらえない

2本のモンスターとのやり取り、という”経験値”。

同船した人は、目の前であの化け物を見た人は解ってくれる。きっとトモくんだって解っ

てくれると思う。それだけで充分だ。

あいつ以上のモンスターを絶対に捕る。

そう誓って帰港の船に揺られ、船室で一時の眠りについた。

「俺は、兎に角3日間やり切った」

ジョン・カビラに馬鹿にされるかもしれないけど、自分に残ったのは確かに”やり切った

思い”ただそれだけなのだ。

 

 

 

 こうして自分の5月九州遠征は幕を閉じた。

 

 

 

 


 第三回「not in japan」第六章「博多に帰る」

 

 

 

帰港してやり切った満足感と初日に自分が想像した以上のサイズが掛かってそのチャンス

をモノに出来なかった悔しさとが入り混じり、ボーッとしながらタックルを片付けている

と船長がメモを差し出して

「これ俺んちじゃけ、ホテル戻ったらタクシーでうちに飯食いに来んしゃい」

と声を掛けてくれた。

「えっ、いいの?」

「良いに決まっとろー、今日は酒飲めるんじゃろ?」

「うん、ありがとうお邪魔させて貰うよ」

全ての片付けが終わり自分もデッキをデッキブラシで擦るのを手伝い、それからお父さん

が釣ったのヒラマサを今夜の肴用に港でそのまま捌いてカウンタックに自分の荷物とロッ

ドと肴を乗っけた。

自分の釣ったヒラマサと鰤はこの日一匹も釣れなかった2人組みに「良かったら皆で分け

て下さい」と言って全部あげた。

良い事をしておけば次にまた良い魚が釣らせて貰えるかも、と遠大な下心計画があったの

は言うまでも無い。

ホテルまで船長に送って貰い、潮まみれになった体を湯船に浸けてふやかした。

「あぁ、デカマサ捕れんかったなぁ」

とまたシミジミと思い返してしまった。

今はもう悔しくて仕方ない、と言うよりは只々脱力してしまっている。

ユニットバスの天井を見るとも無く眺めていたが、焦点は合っていなかったと思う。

気を取り直して風呂を出、新しい服に着替えてロビーに電話をしてタクシーを頼んだ。

タクシーが来るまでの間、テレビでも見てゆっくりしようとスイッチを入れてタバコに火

を着けた途端「タクシー来ましたよ」「はやっ!」

 

 

 

 

 

 

船長宅はタクシーで1000円の距離にあった。

上がらせて貰うと、パンツいっちょで魚を刺身に切り分けている船長と二日酔いの奥さん

と”ラブ”という人懐こい猫さんが迎えてくれた。

暫くするとお父さんもやって来て4人で”乾杯”をする。

先ずはビールからだ。奥さんは男らしく二日酔いを真っ向から迎え酒で迎え撃つ。

色んなモノを出して貰った。

奥さんの作った”うま煮”は九州らしく薄味だが、旨味はしっかりあってスゲー美味かっ

た。

缶ビールを3・4本飲んでから焼酎にして貰った。

お父さんは幾ら飲んでもサッパリ顔色を変えない。船長が「博多のおいちゃんはめっちゃ

酒強かばってん」と言い、お父さんはニヤニヤと笑った。

自分も相当飲めるには飲めるのだが二日酔いが酷いタチなのと、最近は本気で飲んでしま

うと少々暴れ癖が出てしまうようだ。人に殴りかかったりは決してしないが、果てしなく

陽気になってしまい結局周りに迷惑がかかる。今度このメンバーで気の済むまで飲んでし

まったら恐い。きっと酷い三日酔いくらいになって周りの皆に迷惑を掛けてしまうに違い

ない。

コモド遠征で自分の酒癖の悪さには正直参った。

何度失敗しても懲りないが、毎回もうしまい、とは思うのだ。

この日は丁度良く気持ちが解れる程度の良い飲み方が出来た。人間程々が肝心、と心地良

いマッタリ感を味わい。少しボーっとしていると

「あのくさ、そのくさ、ばってん、しよっと、やっとっとよ」

と脈絡も無く博多弁が頭の中で踊り出す。

 

 

 

 

 

 

 

リビングの横の部屋を指差して「7月はそこに寝たら良かと」と船長が言い

「7月には博多に戻ってきんしゃい」と奥さんが言った。

照れ臭くなったので、何だか返事が出来なかった。

色んな話をした。

本当に色んな話をした。

そしてここから始まった。

 

 

 

 

 

そして7月の九州遠征がここから始まった。

自分のチャレンジ釣行はまだまだ続くのだ。

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