Expedision(account of voyage)

 

 第一回「ドラゴンの爪痕」
 第二回「春、かよ!」
 第三回「not in japan
 第四回「はじめの一歩」
  第五回「ディスカバー九州」
 第六回「セカンドタイム・イン・種子島」

 
 
 

 

第七回「新しい一歩」 

 
 
 

 

 第八回「旨し!九州」

 

 

 

第九回「雪辱の島」

 
 

 
 

第十回「ティラノスドライブ」 
 
 
 
 

  第11回「いつも追いかけているモノ」

2013/03/03第6章「強者どもが・・・」第11回完結

2013/02/03第5章「強烈、バキューム!!」

2013/01/18第4章「シンプル」

  

第1章「ドドーンとドン引き」

 

日本に生まれた釣り人の多くが一度は憧れる、と言っても良いだろう。

いつかこの手にしたい。

幼い頃どうだったのかなんてもう覚えちゃいない。

いつかこの膝に抱き抱えたい。

”夢”

でもエンジェルズエンジンを立ち上げた頃から、もう充分におじさんと呼ぶに足る年齢に

なった頃からフツフツと夢を抱くという事に・・・いや夢を抱いたままという事に疑問を

抱き始めていた。

一生の長さをいくら多く見積もっても、もう人生が半分近く過ぎ去ろうとしている今。

実現する可能性がある”夢”から順に1つ1つ叶える、いや叶えようとしないことへの罪

悪感を感じ始めていた。

自分の人生を無為に過ごしてしまう事に対して自分自身に罪悪感を感じるようになった。

 

 

なにか偽哲学というか胡散臭い感じになってしまったが、要はどうしてもアカメが釣りた

 い!!のだ。飛びきりのヤツが。

 

  


’12年9月22日朝、ビルダー氏の自宅にて。今回はテスターさんであるせいいちさん

と一路バビューンと高知へ。

 

これから大橋を2つ跨いで行くのだ。

そう言えばせいいちさんは初遠征。普段忙しく仕事に追いかけられているおじさん2人、

神妙な話をしたりロクでもない話をしたり妙にテンションが上がります↑↑



サービスエリアで飯を食う。

 

これ旨そう!


まずはタクアンから。さすが四国DONグランプリ(?)まずまず美味かったです。



これからアカメを釣りに行くと言えば、先ずは桂浜水族館でしょう。

ただこの後2人のテンションは可笑しな事に



竜馬とテンガロンハットのおじさん。



なんか最近この手のおやじギャグ系というか、クダラナイ(関係者の方ゴメンナサイ)ダ

ジャレがツボです。



おぉこれが桂浜かぁ。



おぉこれが桂浜水族館かぁ。テンガロンハットにTシャツ短パンのおじさん。入口にある

水槽に居るのはもしや?



うわっ!いきなり見ちゃった。アカメ。心の準備が。

2人で「このくらいなら余裕だろぉ」とほくそ笑む。ただこの後この考えが大甘だった事

を思い知らされ変なテンションに。

入場しいよいよアカメが居る水槽のエリアへ。




 げげっ!!!アカメってこんなにゴッツイ魚なの!!画像では伝わり難いのですがこのア

カメは40キロクラスで、自分が想像していたよりもずっと分厚い体躯。

せいいちさんはドン引き。

40キロ以上の魚を釣った経験のある自分でも、これをバスタックルで釣る事を考えると

自分の想像を超えた現実が待ち構えていた事に驚愕を覚えた。

 

 なんだか2人とも口数が少なくなる。

「俺あんなのかけるの嫌だ。絶対無理」

とドン引きのせいいちさんが言いだす。

「うーん」

と自分。

俺達どうなるんだろう?

自分は不安と闘争心が気持ちの中で同居し始める。

彼は何を感じ、何を考えたのだろう。今夜が初アカメチャレンジなのだ。

 

 

どうなる俺達??!!

  

 


 

 

第2章「高知ナイト」

 

アカメを見てからの2人は、それを見てしまう前の2人とはどことなく・・・っていうか

どちらかと言うと結構違ってしまっていたように思う。

 

 

 

とにかく他のモノを見て気を紛らわせよう。デカい亀さん。

 

 

 


この魚なんかかっこ良い形。黒かったらもっと。

 

 

 

それが良さでもあるだけれど、なんだかアバウトと言うか適当と言うかアットホームと言

うか

 

 

 

こんな感じで展示方法がいい加減で、なんか逆に良い。

 

 

 

「ちょっとさぁ、まだドキドキしてっからさぁ、もう一回見ない?」

「アカメ?」

「うん」

 

 

 

水槽のアカメのデッカさを何とか画像上でこれを見てくれている皆さんにリアルお伝えし

ようと横に並んで貰うのだが、氏がロングフェイス過ぎて・・・伝わらないなぁ(汗)

 

 

 

今度はイルカショーを見てザワついてしまって落ち着かない気持ちを整えようと努力して

みたりする。ジタバタする2人。

 

 

 

ザッパーーーン。

 

 

 

湖各票本好きな自分は特に大きな標本を見るとテンションが上がるのだが、今は変なテン

ションの上がり方。

この後どちらともなく

「ボチボチでよっか」

って桂浜水族館から出て桂浜を歩く。

 

 

 

黄昏のテンガロン

 

 

 

お土産屋の巨大マグロ。海はデカい。

この後駐車場まで戻るとタイミンググッドで船長やまひろさんから自分の携帯に電話が入

る。2人はやまひろ釣り具店へ。

アカメ初挑戦は浦戸湾の実績ガイドであるグレイゴーストのやまひろさんにお願いする事

に。

 

 

 

洒落た店内で美味いコーヒーを頂いたり、急遽リーダーを譲って貰ったり。ここまではそ

れぞれ興奮したり何やかやで落ち着かない我々であったが、やまひろさんとその釣友の方

の暖かい雰囲気で一心地着く事が出来た。感謝。

 

 

 

今夜のタックル準備をしながら釣り談義。釣り人は皆兄弟、と勝手ながら思う。

 

 

やまひろ釣り具を出て実戦の夜まで適当に飯を食って仮眠をとる事に。

2人で色んな事を話した。

遠征はいつでも自分達永遠の子供大人、ワクワクを忘れない俺達下らなくも素晴らしいオ

スにとっての永遠の夏休みなのだ。

はやる気持ち。

でも今はロングドライブの疲れをホンの少しの睡眠で、薄らとだけでも拭いとろう。

車の窓の外に見える漁港はずっと振り続けている冷たい雨に煙っていた。

 


 

第3章「高知ミッドナイト」

 

やまひろ釣り具を出てやまひろさんと3人でうどんを食いに行った。

自分もせいいち氏もずっとどことなくフワフワしている。うどん屋でやまひろさんを2人

で質問攻めにした。気になることだらけだ。

ただ2人ともタックルに関しての質問は極力避けた。示し合せた訳ではないが暗黙の了解

もあった様に思う。

恐らく大きく間違ってはいないだろうし、もしそうでも今から夜までにタックルを丸ごと

チェンジする訳にはいかない。今日持ってきたタックルで集中してやり切りたい。

雨は止みそうにない。

 

 

やまひろさんと一旦別れて近くの漁港で仮眠を取った。

意外に2人とも寝つきが良かった。数100キロの移動の後もテンションが上がりっぱな

し、体は休めなきゃ。

 

 


携帯の目覚ましが鳴り響きせいいちさんが起きた。やはり雨は降っている。

いつもスヌーズが終わってしまっても全くもって起きない自分も何とかせいいち氏に迷惑

かけずに起きる事が出来た。

集合場所である船着き場の傍らにある駐車場に到着すると、既にやまひとさんは到着し車

内で仮眠をとっていた様だ。

「あぁアカメ釣れっかなぁ?」自分

「釣れっしょ!」せいいち氏

タックルをグレイゴースト号に積み込み、いざ出陣!!

 

 

 

ポイントに着き一通りのレクチャーを受け実釣開始。

せいいち氏とは普段から何度も釣行を共にしているが、言わずともお互いの考え思いが伝

わる中だ。

許された実釣時間が長くない事を意識し、多少浮ついていた気持ちも瞬時にぶっ飛びいき

なり集中モードにスイッチを入れる。

雨が降り続き厳しい状況、移動はほぼしない作戦。

開始後1時間程で自分のロッドに乾いた

”カンッ”

というバイトが伝わる。がノる気配なし。

「やまひろさん、今バイトあったけど”カンッ”て感じだった。キビレかな?」

「んーそうやろうね。キビレかシーバス。アカメは全然違うきね。」

「やっぱりそうか」

「食ったら解ると思うき。全然違うよ」

 

 

その後2人ともキビレらしきバイトを数度得たが、アカメは勿論一切獲物は得られなかっ

た。

 

 

 

初日はこんなもんか。取り敢えずやり切った。余裕の表情のせいいち氏。

レインウェアは2人ともずぶ濡れ、パンツまでグショグショ。

今晩の宿は自分のニューカーのベッドキット搭載のブラックバス号。

要は車中泊(笑)

中年まっしぐらのアラフォー世代。雨の中精一杯頑張ってグデングデンに疲れきって、も

う体力なんて残ってやしない。

眠い目をこすりながら片づけ、人様に迷惑のかからない場所に移動してベッドにバッタン

キューと滑り込む。

どっちが先に寝息を立てただろう。それすら分からない。

 僕らはドロドロの深い眠りについた。

 


 

第4章「シンプル」

 

何時に起きただろう。

せいいち氏が先に目を覚まし、煙草をくゆらせていた。

一度深い眠りについてしまうと厄介で、釣りが嫌いになったんじゃないかと思える程ぐず

って起きない自分はどうやらせいいち氏が起き上がってからも一時間程死んだように眠っ

ていた様だ。

「妻ちゃんホントに死んどるみたいに動かへんかったよ」

「うーん、ごめん」

 

 

 

昨晩の雨が嘘の様に、憎らしく晴れ渡った空。

起きて身支度し、市内を徘徊してみる。

 

 

 

おぉ、路面電車。

 

 

 

高知駅前。こうして目的なく散策するのも楽しい。普段はなかなかこうやって観光を楽し

む事はないが、こんなのもたまには良いね。

 

 

 

今夜が釣行2日目の最終日。思いっきり体を休めて英気を養い今度こそデッカイアカメを

釣りたい。ここ高知ぽかぽか温泉で休憩する事に。

 

 

 

持ってきた服が全てずぶ濡れ。靴まで。天気が良いので車中に干しておけば多分乾くでし

ょう。

メチャクチャ腹が減ったので何はともあれ飯を食い、それから風呂に入る。

そのまま途中スモーキングタイムを何度か挟みつつも、仮眠室で延々ただただ体を休める

為に眠った。

 

 

食う・寝る・釣りする。

遠征では全てがシンプルに釣りに向けられ、ちょっとした散策や息抜きも釣りを贅沢に楽

しむ為にある様な気がして好きだ。

気持ちの通じ合う仲間となら尚更。

目が覚めたらノットを組み直そう。

 


 

第5章「強烈、バキューム!!」

 

ぽかぽか温泉で眠れるだけ寝た。気持ちもスッキリだ。

もっとも一度寝てしまうと下手をすれば20時間以上眠りこけてしまうタチの悪い自分だ

が、本当によく寝た。

コンビニに立ち寄り食料と飲み物を調達し集合場所の駐車場に向かった。

まだやまひろさんは来ていない様だ。準備をして待つ。

 

 

 

僕らのタックル。普段から琵琶湖で使い込んでいるモノです。

 

 

 

いつも余裕のせいいち氏。最終日出船です。

 

 

この日も昨晩と同じポイントで釣りをする。やまひろさんに他のポイントを試すかと聞か

れたが、今回は初挑戦という事もあり一か所でやり切りたいと伝えた。

他魚種の反応は得られたので、同じ方法で頑張ってやればアカメが入って来さえすればチ

ャンスはきっとあるだろう。

雨は止んだとは言え水色は悪いままらしい。

 

 

自分はオフショアではいつもそうなのだが、2人ともずっと休みなしに冗談を言い続けて

いる。その度にやまひろさんが笑っている。

今夜も数度シーバスとキビレらしきバイトを得たが、本命と思しき反応は無し。

 

 

何時間か集中してロッドを振り続けたが、先程まで何度か得られた生命感も一切感じられ

なくなってしまった。

残り時間は一時間半を切った。

せいいち氏はデッキチェアに座り、やまひろさんとお喋りをし始めた。

あきらめの悪い自分は無言でロッドを振り続ける。

「嫌だ嫌だイヤだ!絶対に釣って帰る!!」

心の中で叫ぶ。が何も無い。何も起こらない。

ルアーはずっとウォルフを使っている。

2日間ずっとドリフト釣法をやり続けたが、ふとウォルフで実績のあったボトムのスロー

トレースを試してみる気になった。

流れがある所でやるのは初めてだ。

”コツッコツコツッ”

何度も少しずつ角度を変えてボトムの形状を探る内に、一か所感じの良いトレースライン

を見つけ、そこを執拗に何度も何度も攻め続けた。

何度目だっただろう。

”ズボッッッ”

と今まで感じた事の無いバキューム感をロッドに感じた。

強烈だ!まるで大きな排水溝に吸いこまれた様に”ゴゴッッッ”と一気にバットまで持っ

ていかれた

「食ったー!!!」

一気にリールを巻く

「マジで!!!!」

16キロオーバーの琵琶湖大鯰を釣った時でもこのバリスタがここまで曲がり込んだ事は

なかった。

愛竿がアメ細工の様にグンニャリと異常なベンドカーブを描く・・・

その刹那、そいつはウォルフを振りほどいて晴れて自由の身となり姿も見せずに帰ってい

ってしまった。

「ぐわぁぁーーーー!!バレた!!」

 

 

一瞬の夢は不意に過ぎ去って行った。

行ってしまった。

僕の膝に抱かれる事なく、姿を見せる事なく水中に消えて行った。

  


 

第6章「強者どもが・・・」

 

 僕らの初アカメチャレンジはあっけなく幕を閉じた。

釣行を終え船着き場に帰る間、自分は憑かれた様にひっきりなしにしゃべり続けていたよ

うに思う。

せいいち氏は終始落ち着いた様子だった。

少なくとも2人ともやり切った。それだけは確かだった。

自分は半分我を失っていた。

でもこの遠征は終わったのだ。

いや、「家に帰るまでが遠足ですよ」もっともだ。無事に帰る所までが遠征で、釣り人が

毎回釣行の度に絶対にしなきゃいけないのは安全に家に辿り着く事だ。

 

 

 

やまひろさんとせいいち氏

 

 

 

やまひろさんと自分

 

片つけを終えたのが確か4時頃。コンビニでチョコレートとコーヒーを買って直ぐに高速

に乗った。

「妻ちゃん休憩してから行かんで良い?」

「全然眠たくないよ、眠い?」

「うん、俺眠い」

「じゃあ後ろで寝て行きなよ。俺全然大丈夫だよ」

せいいち氏は自分に気を使って荷室のベッドには行かなかったが、疲れが出たのかイビキ

をかいて寝始めた。

興奮が冷めない。自分は当分眠気に見放されそうだ。

 

 

 

白み始めた空。

手にはまだアカメの感触が残っている。

悔しい?いや違う。

この想いは一体何だろう?

ただ頭の中を駆け巡るのは次に来た時にどうやってアカメを仕留めるか、どうやってラン

ディングにまで持ち込むか、どうやってどうやって・・・

俺は絶対にデッカいアカメを獲るんだ。

 

 

 

先程白み始めたばかりだと思っていた空は見る見るうちにグングンと明るさを増し、自分

の目をにじませた。

 


                   ー完ー

 

 

  

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